BGM
PLAY:
STOP
コトッ……
脇に追いやった
フレッシュの残りが
気にかかって
まだ来ぬ
待ち人から
しばし
心を戻す
頬杖ついて
匙を回した
躊躇いがちに
覚めやらぬ、宵を前に
列車の音も遠く
立ち寄った深夜のCafe
ここで……
宵を明かそうか、と
心に決めて
宴の余韻を背中から
シートにしみ込ませる
乾いた舌を癒す
アーモンドオーレの甘い
香りとぬくもりが
隙間をうめた
夜明けまでの
ひととき
気が付けば明け方近く
物憂げに舞い降りる
朝日に怯えて
苦味いや増すブラックの
漆黒に身を隠す
窓越しの
アスファルトに跳ねる
雫の音が少し
和らいだCafe
差し込む朝日を
望むべくもないことが
浸らせる
いつもよりは濃い、と
そう舌で味わう
店主の気遣い
いましばらくは……と
薫る朝に醒ましを請う
しゅっ……
心なしか、
カフェの香りのする
今では珍しい
灰皿の脇に
小さなマッチ箱
紫煙に舞うかのように
指でもてあそぶ
手に馴染むそれを
記念に持ち帰ろうか
今宵の……
灯りを閉じ込めた
薫るその箱を
霧立つ
街路に
足音が戻るころ
夜露を集めた
グラスを傾け
夜の色をした
舌の記憶を
透明な雫があらう
薫立つCafeの
温もりだけが
残る
例えばここに
ドアベルの
招きに応じて
客が一人……
空いたテーブルを
横切って
カウンターの
小高い椅子を揺らす
交わす心安き
店主との会話と
躊躇い
ウエイトレスの
物思う横顔
含み湯気立つ
白き光景の
ドラマを
微笑み、垣間見て
おや?
訝しむその訳は
既に馴染みの
ティーカップではなくて
厚口のマグカップに注がれた
ロイヤルミルクティ
ほのかな甘味を予感させる
ウエイトレスの悪戯っぽい
微笑みと
察しのいい店主の
心遣い
過ぎ行く
秋の風の通る
冷えた街から
逃れるように
ぬくもり求めた
私を迎える
紅茶がそこに
カラン……
しばし、足を止めたのは
ドアベルの余韻の途切れるまでの
染み入る時間
蘇る
薫りの記憶が
かつて馴染んだ
テーブルを追い
その先客に
苦笑を隠す
歩の
長さを測りながら
進み入る
まだ見ぬ景色のカフェを
心に描いて
いつもは
明け方近くに立ち寄るそのカフェに
待ち合わせに選んだのは
日も高くなった午前の終わり
「薫が混じるから」
メニューにトーストのないその訳を
少し申し訳なさそうに
話すウエイトレスに
こぼれる笑みで応えた
彼女と
かわりに摘んだビスケットの
ほどけるはみ音
「あなたのお気に入りね?」