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【凪「風をあつめて」】
 受験前の夏休みを図書館通いで過ごす、そんな真面目な少女の足を止めたのは、海風と山風が交差するところ、石畳の坂の中ほどに新しくできた一軒の喫茶店だった。


[PIC] 風をあつめて

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[PIC]



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     1

「ひゃあー!」

 耳の辺りに強い風を受けて、思わず片手で帽子を押さえた。もう片方の手はしっかりとハンドルを握り、少し緊張してブレーキをかける。


 夏休み、少しは外に出て過ごしたいと通うようになった図書館は、海の見えるこの街の、やや山手にあった。
 小さな子供の遊び場には不自由はしない、海岸線に沿った国道の他には車にとって快適とはとても言えない坂ばかりの街だった。海が、坂道が、切り立った家並みの、その隙間が無邪気さという風に満たされていた。

 そのためか、街で唯一の図書館は平穏そのものであり、喧騒が苦手な彼女にとってはとても好ましい場所になっていた。
 いつの間にか開館時間に合わせて家を出るようになり、そして、母親は決して好ましくは思っていないのだが、少し遅めになりがちの昼食までの数時間を、やや古めかしい本に囲まれて過ごすのが日課となった。

 ただ、小さな街の図書館にはありがちなのが、子供向けの本が大多数を占めるそんな蔵書の、彼女が興味を惹かれるような類の書物は、とっくに読み終えてしまっていた。

 もともとが、そう真剣にではなかったものの、受験を控えて勉強のために、という気持ちではじめた図書館通いだったので、それで困る、ということはなかったのだが、少し物足りない……そんな気持ちも心のどこかにはあったのかも知れない。

 海まで続く白い下り坂、薄手のワンピース姿の少女が勢いよく自転車で下るには、少々はしたないと思えるほど。しかし、家路を少し遠回りしてでも、この夏に彼女が見つけたお気に入りのルートだった。


「おっとと、あぶないあぶない」

 母に内緒で持ち出したストローハットが風に飛ばされる危険を察知し、慌てて停止し、少し胸をなでおろした。誰見るでもなかったが、少し舌を出して照れ笑いをして周囲を伺うと、

「へぇ、喫茶店だったんだ」

 右肩に仰ぎ見るようにして、昨日までは気にも止めなかった一軒の建物が目に入った。

 空の青が映るほど大きな窓と白い壁が、こげ茶色のレンガに絡め取られるように居座り、朱色の屋根が空を載せている。特に極め立った特長はなかったが、新しい割には落ち着ける雰囲気を感じさせる佇まいがあった。

「オーライ、オーライ……

 どうやら荷物を運び込んだ直後だったらしい。狭い路地を引越業者のトラックが引き上げようとしていた。めったに車も通らない坂道をバックで方向転換しようと、いかにも窮屈そうだった。

「くすっ」

 海沿いの国道に向かって少しずつ坂を下るトラックの後姿は、やっとこさ一仕事終えた、という安堵が感じられ、道路というには決して良好であるとはいえない石畳のために、滑稽なほど左右に大きく揺れていた。

(カラン……

 真新しくも、いや、やや古めかしい洋館の玄関を思わせる店の入り口のベルが鳴った。



     2


 何思うでもなく、自転車を傍らに成り行きを見守ってしまったのは、はからずも突然の風に足を止めてしまったからでもあり、少し息を落ち着かせたかったからでもあった。しかし、新しくこの街にできた、小さな喫茶店に多少なりとも興味を覚えたことも確かだ。

 車であれば忌避するような、広さはまだある方だが凹凸の激しい昔ながらの石畳の坂の中ほど。海まではいま少し距離がありそうな……浜辺でなければ、いやせめて駅前ぐらいでないと到底流行りそうにないのに、と彼女にしてから思えるような場所だった。

 だが、空を背にする佇まいには妙に好ましく思えた。

 きっと変わり者にちがいない……見もしないのにそう決め付けてしまったのは性急に過ぎたかもしれないが、ベルの音とともに現れたのは、色あせたジーンズにストライプのシャツの袖をまくっただけの、ラフな格好をした男だった。

 無精ひげと濃い色のサングラスが目立つが、それよりも口にくわえたままのタバコの方が、余程彼女には気になった。

 一、二度場所を決めかねたようだが、手にしたチラシのようなものをドアの中ほどに貼り付け、コンコンと指先で叩く仕草が妙に可笑しかった。

(ま、こんなものだろう……

 男のそんなつぶやきが聞こえてくるよう。

(カララン……

 ベルの音が、風を巻き込むように鳴って、男が店内に姿を消した。


「やっぱり」

 手押しで自転車を連れながら、その喫茶店に近寄ったのは、心持ち後になってからだった。ベルの余韻が残っているようで、何を、というわけでもないのに待ってしまっていた自分に呆れてしまう。

『ウエイトレス募集!! 年齢不問 時給・勤務時間 応相談』

 奇をてらったわけでもない、ごく普通の従業員募集のポスターだった。しかし、彼女の目を引いたのは、その一番下……

(喫茶「凪」……

 あらためて、視線を上に上げて赤いレンガ屋根のひさしの影に、さりげなく白い壁に打ち込まれた真鍮の文字プレートに目をやった。微妙に斜めに傾げた書体が、風を誘っているかのようだった。

 視線を戻し、入り口の邪魔にならないところに自転車を止め、ドアに手を伸ばす。

「もう少し、飾りつけをしなくちゃ、ね」

 すっきりした白壁とレンガ。鉢植えの花なんかがよく似合いそうだった。



     3


(カラン、コロン……

 考えてみると、自分以外の他の誰かがこのドアベルを鳴らすのは初めてだな、と不意の来客に驚くよりも先にこんなことを思い描いてしまう。
 店の内装が終わり、つい先ほどに業者が最後の荷物を運び込んだばかり、というのでは当たり前のことでもあったが。

「ご、ごめんください」

 まだ明かりを灯していない店内、南と西に比較的大きめの窓を備えたことが幸いしてか、それほど薄暗いという印象は与えなかった。

 ゆっくりと店内を見回してみると、中はそれほど広くはないことが最初に見てとれた。しかし、意外とゆったりしたイメージを受けるのは、大きな窓に沿って、三、四人掛けのテーブルが三つしか配置されていなかったからだろう。もう少し詰めればあと二つは並べても、窮屈すぎる、ということにはならなかったはずだ。
 入り口から入って左奥、つまり北と東側の一角がカウンターになっていたが、そこにもせいぜい四、五人ぐらいの席しかない。


 さて、あらためて驚いたのは小脇にしゃれたストローハットを抱えた少女の出現ではあったろう。

 やはりここは普通に「すみませんね、まだ開店してないんですよ」とか応じるべきだろうか。少なくとも、「いらっしゃいませ」などという、まるでベルの音に条件反射のように口走ってしまうほど、いや、男はそれほどこの業界に馴染んではいなかった。

「あの……いいですか?」

「あ、ああ……何か?」

 一瞬の躊躇のつもりが、少し長すぎたようだ。次の台詞を少女の方に促されるような形でようやく返事をしたのは、引越の喧騒を何とか乗り越え、やれやれという気持ちを冷ますために、とケトルに沸かしたお湯をメーカーに注いだ、その後だった。

「表の張り紙を見たんですけど」

「はあ?」

 思わず口から漏れ出たのは意外さを表すのに、充分過ぎるほど甲高く、まの抜けた声だった。まさか、入り口のドアにウエイトレス募集の張り紙をしたのは、どう見積もっても数分前にしかならないはず。
 さして手間をかけたものではなかったものの、下手な筆跡を自嘲しながら、それでも直筆で作ったチラシが、わずか数分で用済みになるのでは、という変な不安が、驚きの続きを引き受けた。

 一方、突然の来訪者になった少女の方は、のちに彼女が「マスター」と呼ぶことになる男の素っ頓狂な声に、

(惜しい、サングラスが邪魔でどれぐらい驚いているのかわからないじゃない)

 などと、状況を楽しむ余裕すらあった。

[PIC]



     4


「いったい、何を考えてるの!?」

 その日の食卓を色よく飾ったのは、母親のそんな刺激的な一言だった。

 それはそうだろう、決して成績は悪い方ではなかったが、それでも受験を控えた夏休みに、気晴らしならともかく、突然アルバイトをしたい、と言い出すとは、普通の親は反対するものだ。

「社会勉強かな、うん」

 悪びれもせず、陽気に答える娘の顔を凝視した。周りの子がどうやって遊ぼうか、と気もそぞろに過ごす夏休み。それを真面目に図書館に通う、というものだから、面白みのない、いや、おとなし過ぎるとは常日頃思っていた娘ではあった。

「あのね……、あなた今年受験でしょ? 勉強はどうするの?」

「大丈夫よ、学校の課題はだいたい終わらせたから」

 それでも……、とつなげようとして、母はしばし言葉を詰まらせた。

 およそ勉強を強要するような育て方はしてはこなかったし、それを変えようとは思ってはいない。真面目にやってくれていれば、と控えめな期待でしかなかったものの、そんな両親の思い以上によく出来た娘であった。
 決して無理をしているような様子はなかったが、常にそこそこ以上の成績を残し、派手ではないものの有意義な学校生活を送っていることは、日ごろの様子からも、また、目の前の娘の笑顔からも充分に読み取れた。

「お父さん、何とか言ってくださいな」

 なかば、助け舟を期待して、事のなりゆきを見守っていた夫を見やった。当の視線の先はといえば、自慢の一人娘の、めったにないそんな自己主張に、ニヤニヤしながら食後のコーヒーを口に運んでいたところだった。

「う、うむ……、そうだなぁ」

(貫禄負けだな、しかし)

 まるで、テレビドラマの一場面を見ているようだ、と心の中で苦笑してしまうのは、まだ四十前の若い夫婦の、そして出来のいい一人娘のおかげで子育てに苦しまなくて済んだ、と実は心から感謝している夫の、そんな能天気な発想ではあった。
 そして、自分のその可愛い娘もまた、同じように何かを期待するようなどんぐり眼でこちらを見つめていた。

 もとより、ものわかりのいい父親を演じるつもりではあったが。

「アルバイトをして……何か欲しいものでもあるのかい?」

「ううん、ただ、とってもその喫茶店が気に入っただけ」

(ほお……

 それだけ、か。珍しいこともあるものだ。ちょっとしたいたずら心が頭をよぎる。

「いけないなぁ、やっぱり何か目標を持たなきゃ、な」

「えっ?」

「こうしよう、もうすぐ私の誕生日だ。多少は期待しても構わないかな」

「まっ、お父さんったら!」

 既に母の口調は呆れ顔とともにあった。以前から、この父娘は何かにつけて通じ合っているふしがあった。言いくるめられるのはいつも自分の方だ。

「あら、あれほど四十路になるのを嫌がってたくせに、やっぱりお祝いして欲しいのね」

「うっ、ゴホゴホ……

 満面の笑みを浮かべて、父親のそんな能天気な提案に反撃する聡明な娘ではあった。


「それでね、お母さん。ちょっとお願いがあるんだけど」

「はいはい、何かしらね」

 この笑顔を前にしては、誰も抵抗はできない、か。



     5


「どうぞ……

 入れたてのコーヒーを、すっとテーブルの上に置く。把手の向きも、スプーンの位置もでたらめなら、第一お皿を運ぶ手つきもぎこちないこと甚だしい。


『少しやってもらおうか』

 採用テストのつもりだろうか、素っ頓狂な声の主が、しばし見据えた無邪気な笑顔の主に促したのが、休憩用に入れたばかりのコーヒーを、カウンターからテーブルに運ぶ、というものだった。

 慣れない盆を片手に、見よう見真似に試してみる初めての給仕では致し方ないところだろう。もちろん、そんな些細なマニュアルに口うるさくする性向は、無精ひげが示すように男には皆無といってよかったのだが、ふとした思い付きを実行に移してしまう、そんな性分がサングラスの後ろに隠れているのかもしれない。

(面白い子だ)

 男が関心したのは、突然のテストに臆することなく臨んだ少女の度胸ではなかった。

 「誰」もいないはずのテーブルに、「どうぞ」と声をかけ、あまつさえ見えない客に向かってお辞儀と、さらには笑顔を向けることまでやってのけたことだろう。
 おそらく、本人は意識すらしてはいないのだろうが、そういった心遣いが自然にできる様子に、本当の意味での育ちの良さを感じることができた。

 何より、想像力がある。

 気に入らない方がおかしいだろう。それに、快活というほどではなく、どちらかというとおとなしそうな雰囲気を持ってはいるが。ずいぶんとしっかりした内面が垣間見られた。


「それじゃぁ、最初の仕事を頼んでいいかな」

「は、はい?」

 勧められるまま、この店で作られた最初のコーヒを口にした少女が、慣れないブラック-まだ砂糖もフレッシュも揃ってないことによる-にむせながらも、男に向き直った。
 開店もしていない喫茶店で、初仕事といっても想像できるものではない。

「まだこの街は不案内でね、いくつか備品を揃えなきゃいけないんだが……

「はぁ、買出しですか?」

「ん、明日までで構わないからね」

 そう言って渡された茶封筒の中身はいいとして、メモのリストの一番上は、

(ふーん)

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     6


 翌日、少女は、指定された時刻よりもずっと早く店に顔を出した。

 いつものように図書館に通っていたのではつい遅くなってしまう。母親の呆れ顔を見ながらの昼食は、実はしばらくぶりだった。
 白い坂を自転車で上るのは、少々苦労はあるが、海風が背を押してくれるのが救いでもあった。

「ふうっ」

 最後のひと漕ぎはなしにして、しばし自転車を押し、息を整えながら、生まれて初めてのアルバイト先を見上げてみた。

 図書館や役所に続く長い坂道の、ほぼその中ほど。山手に訪れる客には、一休みにはちょうどいい場所なのかもしれない。ふと、そんな考えが頭をよぎる。


(カラン……

 きっと、このベルの音が強い海風を中和して、潮の香りの、その訪れだけを告げてくれる。


「結構得意なんですよ、私。母にも手伝ってもらったし」

 得意げ、いや、いたずらっぽく、そんな笑みを浮かべながら、男に差し出したのは、真っ赤な生地に中央に大きな白い「凪」の刺繍が入ったエプロンだった。

「いや……あ、ありがとう」

 なかば無理やり着せられた赤いエプロンに、苦笑を隠せない男の表情が可笑しい。痩せた体型が幸いしたのだろう、照れ笑いを隠す仕草に反して、思ったよりもよく似合ってよかった、と少女は胸をなで下ろした。


「あ、」

「はい?」

「そうか、茜くんというのか?」

 ふと見やると、同じく身に着けた少女のエプロンには、やや小さく平仮名で「あかね」と刺繍されていた。

「そうですよ、昨日あたしの名前も聞かなかったでしょ?」

 今更、という可笑しさを堪えながら、新米のウエイトレスが陽気に答えた。

(なるほど)

 ふと、男は自分のエプロンに目を落としてみた。

(なんで、私が「ますたぁ」なんだ?)


     了(「風をあつめて」)

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