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TOP>小説おき場>The Night Tail Story>監獄の妖精

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【監獄の妖精】
 そこは俗に「監獄」と呼ばれ、多くの亡者魔物の徘徊する魔都グラストヘイムの一角。多くの戦士たちが魑魅魍魎を相手に死闘を演じ、様々な冒険譚がまことしやかに語られる、そんな場所だった。今、彼らの間で囁かれるひとつの噂が広がりつつあった。


監獄の妖精

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「監獄の妖精」(1)


(--ばんわぁ)

 いつもどおりの挨拶を送信しようとした、その一瞬先の出来事だった。

--ねぇ、やっぱり居たでしょ?
--うん、何だろ? あれ……

(ん?)

 インカム *1 越しに、流れてきた会話は、パーティ専用回線のものだった。ふと興味が沸いて耳を傾ける。

--あれって、やっぱり幽霊かしら?
--んー、かなぁ

「祇園さんとラキさん? 二人とも監獄かぁ」

 しかし、
 魑魅魍魎の跋扈するグラストヘイムで幽霊もないだろうに。何言ってんだか(笑)

--幽霊だって?

 思わず会話に割り込む。

--あっ!
--こんばんわです!

--おはよー! (夜中でも『おはよう』と必ず言うのが祇園嬢だ)
--エスタさん、騎士団でしたかぁ? (礼儀正しい好男子のラキさん)

--なんだけどね、今からそっちに向かいます。

--はーい
--はいなっ

「さてと、待たせたねぇ。 『ファイヤーウォール *2 !』」

……バリ、バリバリ……

 会話に集中して、すぐ横まで迫っていたレイドリックを火壁に挟み、相手をするのも面倒そうに追撃の詠唱を始めた矢先、

「ライトニング…、ん?」

……ガシャン!

 あっけなく崩れ落ちる鎧の騎士…火壁だけで沈むほど、ここのモンスターは脆くはないはずだが……

「自動人形 *3 の仕業か……

 機械化軍団があちこちで活動している、とは噂に聞いていたが、おかげで歴戦の戦士が次々に閑職に追いやられているとの噂もまた一方で耳にしている。

「このままじゃ、いずれ首都を守る守備隊すら、人形に頼るようになっちまうな」

 とまれ、

 国策の在りようにあれこれ言う立場には、いま、自分はない。

 自分にできることをやるだけだ。そう、仲間たちといっしょに。


----監獄の妖精(2)につづく

*0 エスターの職を紹介してませんでした。「賢者」を意味するセージであり、マジシャンの上位職のひとつ。マジシャンからは、セージ以外にウィザードという上位職が存在する。同じマジシャンからの上位職ということで、スキル(魔法)には重なる部分があるが、まったく別物ともいえる。イメージ的には力のウィザード、技のセージといったところ。

*1 ゲーム内に「インカム」などという便利な道具は存在しません。ただし、同じパーティ(以下PT)同士であれば、離れていても会話をする機能が存在します。(=PT会話)

*2 ゲーム内における魔法職(マジシャン及びその上位職)の使用するとっても便利な魔法。地面(床)に火柱を出現させて相手を攻撃、あるいは足止めします。ゲームでは魔物はこの火柱を避けて回り込もうともせず、まっすぐプレイヤーに向かってきます。小説では頭の悪い(あるいは頭に血が上った)魔物、ということにしておきます。

*3 いわずと知れたBOTのこと。小説の世界でこんな仕様外の存在を許容できるはずもありません。今後は出てこないよう配慮します。


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「監獄の妖精」(2)


「で、幽霊って?」

 監獄に到着すると、さっそくパーティ共通のベース地点に向かった。きっとそこに居るだろう、とは半ば確信に近いものがあった。

「んとね」
「なんて言ったらいいか」

 はたして、予想に反せず、二人の仲間はそこに居た。エスタの問いに、困惑した様子ではあるものの、深刻さは感じないのが不思議ではあったが。

「ヒール魔」
「お?」

「昨日からかなぁ、誰かれ構わず辻ヒール *1 して、さっさと消えてしまうような幽霊が出るの」

「へぇ ありがたい話じゃないか。辻支援好きのプリさんかい?」

「それがね、エスタさん。まだ誰もその幽霊を目撃したことがないんですよ」

 二人が言うには、ここで戦っている戦士たちが、魔物に傷つけられた瞬間に、それがヒールされ、お礼をしようと振り向いた時には、誰もいない。そんなことが何度もあったというのだ。無論、ここを主な狩場にしている二人もまた例外ではなく、幾度となくヒールの恩恵にあずかりながら、当の恩人の顔すら見てないという。


「ね、変でしょ」
「そだねぇ、ずいぶんと恥ずかしがりやなプリさんかなぁ、やっぱり」
「とにかくすばやいのか何なのか、今じゃ『監獄の妖精』なんてあだなまでついて、一部ではファンクラブまでできているらしいですよ」

「あはは、」
「笑い事じゃないわよ」

 声を荒げた祇園さんの、続けたセリフはもっと可笑しかった。

「この監獄に、でっかく『LOVE FAIRY』なんて書いた鉢巻をした集団が歩き回るようになったら、世も末だわ」
「世も末って、ここは魔物の都グラストヘイムなんだが(笑)」

「でもまぁ。一見の価値はありそうだね。妖精の正体を見極めるとするか」

「あのね」
「ん?」

「もしプリさんだとしたら、一人だけ心当たりがあるのね」
「ほぉ?」
「誰です?」

「血飛沫を目にすると、誰にでもヒールして、そして礼も聞かずに立ち去り、もしくはテレポって…」
「うんうん」

「最初に会ったころのあくさん *2 が、そんな感じだったわ」

「うぉ?」
(なんでそこで弟の名前が。というか、そんなことやってたのか、あいつ)

「ふむ、なるほど…ひょっとするかも」

「ひょっともひょっとこしないしない。だいたい弟(アーク)は、こないだの青石の無駄遣いで、いよいよ沙希 *3 の堪忍袋の緒が切れたみたいでな。当分の間青石没収でどこも遊びに行けない、って泣いていたぐらいだから」

「ふーん、最近顔を見ないと思ったら、そんな事情があったのね」
「かわいそうなアークさんですなぁ。あんなに頑張ってたのに」

「まあ、無理してたみたいだから、休憩させようって腹なのかもね」
「へぇ」
「おっと、本当はやさしいお姉さまでしたか。これは失礼」


 それこそ口からでまかせなことは、すぐそばで見てたエスタにこそ明白だったが、一応一家のフォローは入れておくに越したことはなかった。天を仰いで両手を広げたまま、あまりのショックで硬直してたアークの姿を伝えるのは、あまりに不憫ですらあったから。


----監獄の妖精(3)につづく

*1 聖職者(アコライトやプリースト)のスキルであるヒーリング(治癒)のこと。

*2 「アーク=フレアリーフ」エスターの弟のプリースト。しばらく前に、この監獄に滞在していたらしい。

*3 「魅魔 沙希」エスターの妹であり、アークの姉にあたる。職はエスターと同じセージ(賢者)。少々癖のある娘で、その実態は後々語られる。



「監獄の妖精」(3)

 実のところ、監獄に棲まうモンスターの刃にやられなければ表れない妖精、というのも中々目撃するのは難しいものがあった。本能的にモンスの顎(あぎと)をかいくぐり、お得意の火壁で間合いをとっては高火力魔法で殲滅…淀みなく流れるような仕草が身についてしまっている。

 実際、目的が妖精の確認となった途端、うまくはいかないもので、エスタは自らの身体に一切触れさせることなく監獄の中を闊歩しつつ、既に数時間が経とうとしていた。

そんなおり、

「エル、オー、ブイ、イー フェアリーちゃわわぁ~~ん!」

(んがっ)

 脳天を直撃するような、野太く重なった掛け声がこだまし、魍魎とした監獄の、辺り一面一切の色彩を極彩色に染めきった。

「なんだ、なんだぁ?」

 そして目に入ったのが、正面のT字を横切る7~8人とおぼしき野郎ばかりの集団だった。いずれも、ピンクの法被に紫色の鉢巻、最後尾にはこれまた紫の地に『LOVE・FAIRY』と金色に縫い記したのぼりが2本、時折ウェーブを描きながら随歩するといった……おそらくは悪夢に近い光景だった。

 これまで、どんなモンスターとの激戦の記憶をたどってみても、このときエスターが被ったダメージに相当するものはなかったであろう。それほど、視覚と聴覚を通してエスタを襲った衝撃は計り知れないものがあった。

「祇園さんの言い様じゃないけど……本当に世も末かも……勘弁してくれ、まったく」

 しかし、頭を抱えるような光景--実際抱えたわけだが--のしばし後、またもや耳にはしたくなかった野太い声がこだました。それは、先ほどの能天気なコールとはまた違った内容を多分に含んでいた。

「ん、ぎゃ~~!」「よ、寄るなぁ!」「ひぃ~~~!!」

(馬鹿たれがぁ)


----監獄の妖精(4)につづく






「監獄の妖精」(4)


 どうやら、ここをどこかの商店街のど真ん中と勘違いしたかのような大声と喧騒の入り乱れた行進は、当然といえば当然のごとく、監獄に跋扈する亡者たちを呼び寄せる結果となったらしい。
 見て見ぬ振りもできないのは、未だ未熟とはいえエスタの矜持というべきだろう。悲鳴の源を目指して駆ける。

「ぐぇ~~!」
「ん、ばっ!」

 エスタが予想したとおり、2~3匹の囚人 *1 とインジャスティス *2 にいいように弄ばれ、血飛沫を上げながら転がっていく光景が目の前にあった。咄嗟に、

「ファイヤ~ウォール!」

……バリ、バリバリ!

 囚人とインジャの足元に出現した炎の柱は、計算どおり逃げ惑う馬鹿どもとモンスターを分断した。

「ヌガ~~!」

(ふん、一応怒るだけの頭脳はあるんだな)

 突然の現れた邪魔者の存在に、いやましに狂気を顕にしてエスタに向かって襲い掛かってきた。この程度の数のモンスを倒すのに、30秒もかかるものではない。予め設置した火柱に誘導するようにモンスたちの中心を駆け抜け、同時に詠唱を始める。

……バ、バババ、シュー

 次々に炎に包まれ灰となっていく囚人たち、そして遅れて近づいてきたインジャスティスは、エスタにあと一歩というところで天井からの雷撃を受けて黒焦げとなって崩れ落ちた。

「大丈夫か?」

 ご丁寧に特にダメージの多そうな数人に、プリーストには及ばぬまでも応急手当にはなるであろうヒーリング 3 を施したエスタだったが、

……ドカッ!

「んげっ!」

 突然、背後から強力な蹴りを入れられ、床に倒れ込むエスタ。

「な、なんだ? わっ、」

……ドカドカ、
……ガシガシ!

 寸瞬も惜しまず、ダース単位のブーツによる蹴りがエスタを襲う。

「ぎゃっ、よせ、痛いいたい!」

「なんだ、手前はっ、せっかく俺らがフェアリーちゃんの愛情の篭ったヒールを楽しみにしてるっていうのに、突然現れて邪魔するとはぁ!」
「そうだそうだ、男なんかにヒールなんかされたくないったらないぞ!」
「このっ、この!」

「な、何を、ば…ぐぇ!」

 あろうことか、せっかく助けたはずの連中に足蹴にされることになるとは、あまりの不条理と、突然の出来事に頭の中が混乱してされるがままになるエスターだった。

「邪魔なんだよ、手前は!」
「そうだそうだ、邪魔なのだぁ!」

 どうやら、野郎ばかりと思っていた集団の中には、そうでもないのも居たらしい。ブーツばかりではなく、それに混じって黄色い声とともに小ぶりのサンダルでエスターを小突くヤツがいた。

(ん? 『なのだぁ』?)


----監獄の妖精(5)につづく

*1 魔物、ゾンビプリズナーのこと。監獄に囚われていた囚人たちのなれの果て。

*2 昔は囚人たちを苛め抜いたのであろう拷問官らしい。ほとんど裸に近いその姿は、ある種の趣味な世界を想像させる。ゲーム内での俗称は「変態」。

*3 聖職者のスキルであるヒールだが、ゲームでは他の職でもこのスキル(といっても低レベル)が使えるようになるアイテムが存在する。そのため、魔法職であれば「コツを使えば聖職者の真似ごと」ぐらいはできるようになる、という設定。



「監獄の妖精」(5)


「ん、がぁ~~~!」

……ガバッ!

「うぉっ!」
「なんだぁ、こいつ、突然立ち上がりやがった」

 もう、瀕死のところまで蹴り続けたと思っていた相手が、不条理な掛け声とともに起き上がり、男たち数人が床に飛ばされた。
 狼狽する連中に目もくれず、エスタはその一点に向かった声を荒げた。

「ほ~む~ら~~~~! お前、いったい何をしてんだぁ!」

「あ、エスタ兄ちゃんなのだぁ\(~o~)/ 元気ぃ?」
「実の兄を足蹴にして散々痛めつけといて、『元気ぃ?』だとぉ!?」
「あ、あはははははっ……

 スーパーノービスの焔(ほむら) *1 1は、一家の末娘であり、エスタにとっても妹にあたる。「~なのだぁ」が決まり文句の能天気娘だ。

「なんで、お前がこんなバカげた連中と一緒にいるんだ!」
「んとね、噂の妖精さんに会わせてくれるっていうから付いてきたのだ」

「ばかたれっ! 知らない人に付いていったらダメだと、沙希も言ってたじゃないか!」
「でもでも……

 ひどい言われようだが、これぐらいまくし立ててもおそらくは反省など一切しないことは、当のエスタであっても身にしみてよく知ってはいた。
 とはいうものの、

「やいっ! 我らがアイドルの焔ちゃんを怒鳴るとは何ごとだぁ!」
「そうだそうだ、事と次第によっちゃあ……

……ギロッ!

「うっ」(たじたじ)

 さすがのエスタも頭にきたのか、殺気を含んだ視線で男たちを睨みつけた。

「そ……そうだったな。勝手にヒールなんかして悪かった……

「うぉ!(汗)」

「モンスの代わりに、利子をつけて返してやるから安心しなっ!」
「げっ!」

 大気中の精霊の力を集め、エスタの身体が薄黄色の燐光に包まれた。

「ぅぁら~い~とに~んぐー *2 !」

「ぎゃ、あ……え、遠慮しときますぅ~~~!」

 容赦ない呪文の詠唱に、脱兎のごとく逃げさる男たち……

……キャストキャンセル *3

「ハァハァ…、ったく…」

 ズタボロのごとく叩きのめされたエスタではあった。壁にもたれかけるようにしてへたり込んだとしても無理のないことだったろう。

「大丈夫ぅ?」
「し、知るか……

 何がなんだか、とりあえず頭を抱えたくなるような出来事が続いたことで、怒る気力も消失していた。

「あっ」
「!」

 焔の短い発声に、何ごとか、とエスタが振り仰いだ瞬間だった。

……ポアッ
[PIC]
「っと!」

 一瞬、独特の光に包まれたかと思ったら、それまでエスタを苛んでいた打ち身や切り傷による痛みが掻き消えた。これかっ

 立ち上がると同時に、その監獄の妖精とか噂されるヒールの主を目で追う。

……!)

 黄色というよりはもっと白っぽい靄のようなものが薄暗い監獄の中にあって淡い光を放っているようにも見えたが、一瞬のことで判然としなかった。

 だが、エスタは見た…というよりは感じた

……くすっ

 確かに「それ」は笑っていたかのような表情をしていたのだ。

「だ、(誰だ?)」

 声を出そうとする間もなく、その靄は四散するように掻き消え、そこはいつもの見慣れた薄暗い監獄の景色でしかなかった。

「あれが妖精さんなのだぁ。本当にいたんだね(嬉)」
「らしいな。しかし……本当に幽霊の類なんだろうか。あんなの聞いたこともないが……

「まあ、ともかく、最初は半信半疑だったけど、確認はとれた。いったん戻るか」
「戻る?」

「ついてこい、焔っ」
「はーい、なのだぁ」

(テレポート *4
(テレポなのだぁ)


----監獄の妖精(6)につづく

*1 フルネームは「紫 焔(むらさき ほむら)」前述のアーク、沙希をはじめ、彼ら兄弟たちの名前にはファミリーネームによる共通点がない。ひとえに行き当たりばったりでキャラを増産していたツケである。一応、女性キャラには名前のどこかに「サキ」が入るように考えてはみた。
 ちなみに「スーパーノービス」とはノービスから始まるキャラの育成において、ある程度高いレベルまで他の職に転職せず、かわりに1次職(マジシャンやアコライトなど)のどのスキルでも覚えることのできるようになった特殊職のこと。覚えることのできるスキル数も増えるわけだが、所詮1次職のスキルどまり。小回りがきき、多様性も抜群ながら力不足は否めない。

*2 「ライトニングボルト」いわゆる電撃魔法。相手に雷を落とすようなスキルで、エスターが好んで使う。

*3 キャストキャンセル。普通、魔法の詠唱は自分では中断することができず、また詠唱中は移動もできないのがゲームの仕様。しかし、セージはその詠唱を中断したり、詠唱しながらでも移動することができる。

*4 テレポートも聖職者のスキルだが、他の職でも使えるようになるアイテムが存在する。ゲームの仕様では、「同じマップの別の場所にランダムで飛び出す」という微妙な代物。それではあんまりなので、小説ではちゃんと狙った場所に瞬間移動できることにする。




「監獄の妖精」(6)


「きゃはははは……、この子がエスタさんの妹さん? ん~~~かっわいい(>_<)」
「お初です。いつもお兄様にはお世話になっています。クルセ *1 のラキです」

[PIC]
「よろしくなのだぁ(^_^)b こちらこそ、あんぽんちんな兄ちゃんがお世話になってるのだ」

「あ、あんぽんちん……って(汗)」

 エスタと焔が戻った先は、監獄内でも比較的モンスの立ち寄ることの少ない通路の片隅で、エスタをはじめ同じセージの祇園、ラキの共通の集合場所にしている一角だった。

「あ、まだ名前を言ってなかったわ。セージの祇園枝垂桜です。『しーちゃん』と呼んでくれていいわよ、焔ちゃん」

 一瞬、きょとんとした表情の焔だったが、

「『しーちゃん』はあたしの仲良しの紫遠 *2 ちゃんが居るからダメなのだ、鈴の姉ちゃん *3

「す、鈴って……」(何よ、この子)
「沙希姉ちゃんとおんなじなのだぁ」
「あ、あら、そうなの……
「綺麗で優しい沙希姉ちゃんなのだ(と紹介しないとしかられるのだ)」

 ニコニコと、まるで罪のない表情で社交辞令の社の字も知らない焔に、今度は祇園の方が困惑してしまう。

「え……えろう可愛らしい……妹はんやおまへんか……エスタはん」
「んっがぁ!」

 眉間の皺は隠しようもなく、興奮したときにはなぜか京言葉が無意識に口をついて出てくる祇園は、それまで考え事をしていたのか、沈黙を続けていた隣のエスタの首元を締め上げるようにして揺り動かした。

(な、何だ? またあの不条理なファンクラブの連中か!?)

 状況把握に至る前に、激しく揺り動かされたエスタの頭の中は、せっかく回復したばかりの身体が再び生命の危機に瀕していることを本能的にしか認識できない状態に陥っていた。

「え、エスタさん、大丈夫ですかぁ」

 やはり、そこは馴染みの監獄仲間。一瞬(? おっと)躊躇したとはいえラキが決死の勇気(? なんだこいつ)を振り絞って祇園とエスタを引き離した。目の前で人死にが出るのを傍観するのは、きっと寝覚めのいいことにはなまい。その常識が、エスタを死の渕から呼び戻すこととなった。

「げっ、ゲホゲホ… た、助かった。キさん、あなたは命の恩人です」
「いやいや、どういたしまして。いやはや良かった。」

「はぁハア、もう少しで訳も分からないような死に方をするとこだった。
 まったく、いきなり何てことをしてくれるんですかぁ!?」

「いやね、ひょっとしたら……」(どうやってごまかそ……
「うん?」

[PIC]
「そ、そや。ほらっ、死にかけたら、また妖精はんが来てくれるかも知れまへんやろ?(大嘘)」
「(じとぉ~~)あのねぇ……(汗)」

「あ、なぁるほどなのだぁ(嬉) それじゃ……

「(ピクツ)何詠唱してんだ、焔! やめんかぁあ!!!!」
「きゃ!」

…………バ、バシバシバシッ!

「あんぎゃぁ!」

……プスプス

「あ~、びっくりさせるから全力でファイヤーボルト *4 落としてしまったのだ」

……ツンツン

「大丈夫?」
「これは、ちょっと危ないかも知れまへんなぁ」

「え、エスタさん……(ってこんなキャラでしたっけ/汗)」

「ご、ごめんなのだぁ」

 焔も、さすがに悪ふざけが過ぎたかと思ったかどうか、少ない魔力ではあるものの、精一杯のヒールを施した。

「きゅぅ~~(なんでこうなるんだぁ)」


----監獄の妖精(7)につづく

*1 クルセイダー。同じ剣士の上位職である騎士(ナイト)よりもごつごつしている。神の加護を受け、防御力が高いらしい。

*2 フルネームは「神撫 紫遠」焔よりは少し年上のウィザード。(当時はまだマジシャンだったかも)「シオン」という読みから近所(?)では「しーちゃん」で通っていた。

*3 「鈴」とは、ゲームでも一番と名高い萌頭装備である「大鈴」のこと。どうやら沙希はこの祇園と同じ大鈴をしているらしい。

*4 ファイヤーボルト。先ほどのライトニングボルトが電撃であるなら、これは魔法による火矢の攻撃スキル。



「監獄の妖精」(7)

「くっ、くくく……
「どぅわはははは……!!」

 おおよその反応は読めていた、とは言いながら、肩を震わせて耐えるエスタに、兄弟たちの容赦ない嘲笑が降り注いでいた。

 ここは首都プロンティア城のとある1室。てんでバラバラに各地に散ってしまいがちな兄弟たちではあったが、相次ぐ激戦の合間、その束の間の休息を得られる共通の場として長兄であるFlowLight *1 が用意したものだ。固い絆で結ばれた兄弟たちが諍うことなどありはしなかったが、沸き起こった問題などを話し合い、対策を練る必要ができた時などには家族会議へとその機能を変えることもあった。

「う゛~~」

 「監獄の妖精」に不条理なファンクラブ……たしかに馬鹿げた話だった。気心の知れた兄弟たちに、いやだからこそ笑われても仕方ないのだろうとは思う。

しかし……

「なんで、お前まで笑ってるんだぁ、焔ぁ~~!!!」
「きゃはっはははははぁ……

(それも飛びっきりの馬鹿笑いをしやがって……

「まあ、ええやろエスタはん *2 、焔はいつでもこんなんやから(笑)」
「そうなのだ、こんなん……あ゛、それはいったいどういう意味なのだ? 沙希姉ちゃん?」

「ほらな、エスタはん?」
「わかったよ、はぁ……(疲)」

「ところで、」

 さすがに、いつまでもお茶の間劇場よろしく馬鹿話ばかり続けていくのも、名門サキ家としてはどうか、とでも思ったのだろう。アルケミ *3 のジーンが話題をもとに戻そうとした。

「妖精というからには、たしかに変わっているね。兄ちゃんたち、何か心当たりは?」

 ジーンからすれば、エスタを含め大方が兄にあたるわけだが、名前をつけずにこう呼ぶ場合は、上からFlowLight、RedEye *4 、そして一家で最初に転生を果たしたリオン *5 の3人を指し示すのが、なかば暗黙の了解となっていた。今この場に集っているのは、長兄たるFlowLightとリオンの2人だったが。

「それはなぁ……
「うんっ」

 さすが長兄、兄弟たちの期待の眼差しが集中する。

「私が知っているとでも思っているのか?」

……ドテツ

「なんだよ、兄ちゃんっ! 期待させといて!」

「だいたい、監獄のことなら、私より、リオンやエスタの方がずっと知っているはずだろう? 他人を当てにするのは良くないなぁ」

「まあ、乗りかかった船だ。見事『妖精』の正体を突き止めてみるんだな。まがりなりにも『賢者』の名を冠したセージなんだから」

「リオン兄まで……。うーん、そんなこと言われてもなぁ」

 燐光に包まれて姿かたちもはっきりせず、それ以前にあっという間に消え去ってしまうような相手の正体といっても、どこをどう突いていいのか検討もつかなかった。

(捕まえる? どうやって?)

----監獄の妖精(8)につづく

*1 ゲーム内での名前は「SAKI=FlowLight」最初の方のキャラで、当時は「SAKI=なにがし」という命名をしたいた。小説ではちょっと使いにくいので後半の「FlowLight」で呼ぶことにする。

*2 そう、関西弁。ゲーム内でも沙希はベタベタの関西弁です。

*3 「ジーン=カシム」アークのすぐ下の弟でアルケミスト。商人の上位職のひとつだが、剣を持って戦うだけでなく、回復剤(ポーション)を作ったり、それを投げつけたりして相手を回復させるスキルがある。

*4 ゲーム内では「SAKI=RedEye」古いキャラであることがネーミングから想像できる。ゲーム的には、おそらく、兄弟たちの中で一番不遇な扱いをされているキャラ。長男であるFlowLightにつづく一家のナンバー2のはず。

*5 「リオン=マクミラン」一家のナンバー3。しかし、一番頑張って育ったキャラで、小説中でも最も強く、一家のエース的な存在であるウィザード。「転生」とは、一度レベル99まで育ち、その後通常よりも有利な条件で再びノービスから育成をした、ということ。転生後はさらに上位職にあたる「ハイウィザード」となり、覚えることのできるスキルも増える。



「監獄の妖精」(8)

「それだけじゃ、何だし……
「?」

 頑張っている弟を、ただ突き放すだけするには、やや甘いところがあるというのが、FlowLightに対する兄弟たちの評だった。それだけに頼られもするわけだが。

「この中で、実際に『妖精』のヒールを受けたことがあるのはエスタだけなわけだが……、で、どうだった?」
「どうって?」

「まあ、お前たちの多くが他人からのヒールをあまり受けずに育ってきた経緯があるから、無理もないんだが。支援系、特にヒールには術者の性格や感情が表れやすいものだ。例えば、同じプリーストでもアークと、洸太 *1 では受けた感じは異なるだろ?」

 言われてみれば、とも思いつつ、そんなことは今まで意識したこともなかった。そうと分かって比べてみなければ区別が付かないほどの、そんな微妙な違いなのだろう。

 だが、ヒントとしては十分だった。エスタの覚えている感じでは、

「そうだなぁ……シャボン玉が割れるような、そんな軽い感じだったかなぁ」

「なんや、難しそうにしてた割には、えろう具体的な言い方やないか、エスタはん」
「少なくとも、沙希のヒールみたいに『はよ起きんかいっ!』みたいな陰険なものじゃなかったよ」
「うぉ、何やてぇ! かけなしのSPを裂いてヒールしてやってんのや、ウチのヒールを受けたからには、それこそキリキリ働いてもらわんと割が合わんやんか!」

(そこで握りこぶしで力説するなってぇの。まったく)

「はいはい、まあ沙希はほっといて。ちょっと実験だな。おい、焔」
「はーい、なのだぁ」

「ちょっとエスタにヒールしてやれ」
「了解なのだ、えいっ」

……ポワッ

(へえ、なるほど)

「聞いた感じでの勘だったが、どうやら当たっていたみたいだな」
「うん、似てるね、どうやら『妖精』は、幼子がオモチャで戯れるように、ヒールで遊んでいるのかな。こちらの反応を面白がってね」

「さよかぁ、その『妖精』はんというんは、焔みたいなガキんちょで、能天気に遊んでいるだけなんやな」
「だろうね、内容がヒールだから迷惑というわけじゃないが、人騒がせなことは確かかな」

「相手の性格が読めたら、それなりに対処の仕方もわかってくるかな。具体的にはエスタ次第だが……

「相手はこれでも一度も姿を確かめられたこともないつわものだから、そうすんなりとこちらのペースに乗ってくれるとは限らないか」

「ちょっと待つのだっ!」
「ん? なんや、焔?」

「さっきから聞いてたら、あたしと似てて、それが能天気で人騒がせでガキんちょって、それはいったどういう意味なのだ?」
「今頃気づいても遅いわい、ま、そういうこっちゃ」

「も~~、いぢわるなのだぁ、みんなぁ!<(`^´)>」

「あ、ははは……

「まあ、いいだろ、焔。問題の『妖精』の方だ。いけそうか、エスタ?」
「んー、方法がねぇ」

「そうか……
「え? 何かいい方法があるの、リオン兄?」

「無いこともない、な。いや、これならいけるだろう。エスタ」
「ういっ」

「たまには監獄じゃなくて騎士団にも行ってるよな、お前」

「!」

 そういえば、10人を数えるサキ家の中でも、騎士団にほいほい入っていけるのは限られている。リオンはもちろんとして、それ以外ならアークかエスタぐらいだろう。リオンが共通項として匂わせたのなら……

「な~る、分かった。ありがとぉリオン兄」

「え、なんやなんや。何2人して分かったようなこと言ってるんや? もったいぶらんと教えてんか?」

「えへへっ、内緒」
「そらないでぇ。けちけちせんでもええやないかっ。なあなぁ」


----監獄の妖精(9)につづく

*1 さぁ、誰でしょう。いずれにせよ、この小説はフィクションです。




「監獄の妖精」(9)


「エスターさんっ!」
「えっ、ラキさんどうしたの? えらく興奮(血走った目で)して……

 手はずを整え、揚々と監獄に乗り込んできたエスタだったが、待ち構えていたようにクルセのラキに呼び止められた。

「妖精を捕まえたら、ぜひ私に譲ってくださいっ(>_<)」
「はぁぅあ?」

 突然、何を言い出すやら。まさか、監獄でも数少ない良識派と信頼していたラキまでも、よなよな「らぶらぶふぇありぃ、ちゃわぁ~~ん」と連呼して徘徊する例の集団の毒気にでも当てられてしまったとでもいうのだろうか。
 脳髄の奥に、不安からくるかすかな頭痛の種を意識し、エスタは続けて問いただした。

「また、なんで?」

 ラキは、切羽詰ったような、それでいて哀れさを誘う真剣な面持ち(ヘルムとアイアンケイン *1 のおかげで顔は見えないのだが)で叫んだ。

「専属のマグニ *2 とヒールが欲しいんですぅ~~~!」
「あ、あ~~っ! なるほど」

 ラキが常用している(というより他の技は見たことないぞ)グランドクロスは、その強力な攻撃力と引き換えに凶悪なほどのリバウンドを術者自身に強要する。いわば肉を切らせて骨を断つ戦法だ。無論、プリーストには及ばないものの、長年の聖騎士としての修行で身に付けたヒーリングによって、ある程度は軽減はできるものの、それでも凶悪さを増す最近のモンスターを相手に、ソリストとしての限界を感じていたのだろう。

 それにしても、

「正体も分からないような存在にまで頼るようになるなんて、ラキさん、よっぽど……(涙)」

 あまり公言できることではないが、ラキは現在、相方(プリースト)募集期間6ヶ月の記録更新中だ。そういえば、エスタの弟プリのアークが自宅謹慎になった、というのを聞いた時の残念そうなラキの顔が、今更ながら思い出された。

 ま、話が脇に逸れた。つか、ここで単独行動しているのはエスタだって同様なのだ。いちいち泣き言に付き合ってられるか。

「ま、行ってくるさぁ」
「頼みましたよぉ、エスターさんっ!」

 感激と名残を惜しむかのようなラキの抱擁(それはたまらん)をさらりと躱したエスタは、

「じゃ、後ほどっ」

--テレポート


 さて、いくつかのテレポアウトは、エスタにとってこの日の監獄の様子を探る目的のものでもあった。徘徊するモンスの足音や、別働のパーティの位置などをおぼろげながらイメージしていった。

 いつになく慎重に闇に目を凝らす。

 それもそのはずだ。自分が何らかの負傷を負わねば、件の妖精は現れない。わざと囚人どもの刃に身を晒すか……しかし、一歩間違えばこちらの命も危ない。慎重にもなろうというものだ。とりわけ……今回に限っては。

--ヒュン……

「あ、エスタ兄ちゃんっ!」
(びくっ)

 おそらく、妖精は言うに及ばず、画面を埋め尽くすほどのモンスターの集団の中に、まかり間違ってテレポアウトしたとしても、この時ほどの驚愕を与えはしなかったであろう。

「焔っ! な、なんでお前が居るんだ? 家でおとなしくしてろ、とあれほど……んぁ?」
「あたしも妖精さんを捕まえるのだっ!」

「捕まえるって……お前、なんだそれは?」

 そのときの焔のいで立ちといったら、頭の麦わら帽子は、まあ分かる。焔のお気に入りでもあったし、第一転職祝いに材料を集めて回ったのは他ならぬエスタであった。しかし

「えとね、」


----監獄の妖精(10)につづく
*1 ともに剣士系が使う防御力重視の装備。見た目をより一層ごつごつさせる。

*2 プリーストのスキルで、魔法などのスキルで消費させるSPの回復速度を上昇させるとっても役にたつスキル。いわゆるスキルで戦う職(や戦闘スタイル)にとっては垂涎のスキルともいえる。




「監獄の妖精」(10)


 時はほんの十数分前にさかのぼる。グラストヘルム古城前 *1 での出来事だ。

「んー、到着したのだ。エスタ兄ちゃん、もう入ったかなぁ」

 性懲りもなく、兄の真剣さとはまったく関係のないところで、スーパーでの買い物に連れて行ってもらえなかった子供が、すねたあげく、実力行使を発揮して追いかけてきたかのような心境で、焔はいた。
 ようは遊んでもらいたかったのか、いや、ドジな兄で遊びたかったのだけとも……

「やぁ、そこのスパノビの嬢ちゃん」

(ん!)


 今まさに古城への入り口に差し掛かったその時だった。

 振り返ると、黒サンに白髭、頭には掲示板(「激安」)の、いかにも怪しい風体のブラックスミス *2 が焔を見てニヤニアとした表情を浮かべていた。

「かあいいねぇ。どうだい? ひとつおいらとお城で甘いアバンチュールでも?」
「お城で番茶? おっちゃん……お茶に砂糖入れるのか?」

--ズドッ

「な、なんだってぇ~~!」

 派手にずっこけたそのブラックスミスは、大抵の女の子なら悲鳴を上げてあとずさったり、少し気丈なら慇懃に「遠慮しときますわっ」程度の、まあごく普通の反応を期待していたはずが……

 こうも素でボケを返してくるとは、まったくの予想外だぜ。

「や、……やるな」
「?」
「あうぁ~~無垢(断っとくがそれは大きな誤解があるぞ/作者談))でつぶらな視線が突き刺さる」

 のた打ち回るようにして呻くそのブラックスミスは、名前をウラキ *3 という。
 主に婦女子をからかっては不審な、そして汚物を見るかのような視線を浴びることに至上の喜びを覚える、いうなれば変態だった。(それ以外の呼び方は思いつかないが……/作者しつこく談)

「はあはぁ……(これはこれでエクスタシーかも/嬉)」

……変なヤツ」

 あまり関わらない方がいいのだ、というのは焔にしては珍しく懸命な判断だった。無視して扉を押し開けようとした瞬間。

「あいや待たれい、そこなガキんちょ」

「ふぁいや~~ぼるとぉ(なのだ) *4
「わちゃ、あちあちあ……

 「ガキ」と呼ばれてほっておくほど焔は大人ではなかった(もちろんだが)振り返りざまの詠唱でウラキは火炎の手厳しいジャブを浴びることになる。

「ひ~~、前触れもなくいきなり攻撃するとは、なんてヤツだ。いったい親兄弟はどんな教育してんだ、まったく……

「いいかげんにしないと怒るぞ。あたしはこれでも忙しいのだ」

「わかったわかった。(もう攻撃してんじゃねえか、)」

「ところで、これから古城に用事のようだが、いったい何を?」
「お兄ちゃんと一緒に監獄の妖精を捕まえるのだ」

「ほぉ」

 意外とはいえ、しかしウラキとて最近噂の妖精の件については聞き及んでいた。

「それならちょうどいい、お嬢ちゃん、これを持ってきな。きっと役に立つから」

「はぁ?」

「わがウラキ商隊が総力をあげて開発した対妖精捕獲最終兵器だ。これがあれば1時間に100人の妖精を捕まえることも可能という優れもの。どだ、今ならもう1セットおまけして500z、1セットあたり250zというお買い得っ」

「?????」

----------


「で、それが渡されたアイテムってやつか?」
「そうなのだ(嬉)」

--げんなり

 何をどう転んだらそんな話になるんだか。今、エスタの前の焔といえば、麦わら帽子に……どう見てもただの虫取り網。(似合いすぎてるのが余計頭を抱えさせる)

「エスタ兄ちゃんのもあるよ」
「いらんわいっ!」

「むむっ、仕方ない二網流でいくのだっ」(ぶんぶん……振り回すんじゃない)

「か、勝手にやってろ。ったく」


----------

再び古城前

「ふんふん、500zとはサービスしすぎだったかなぁ。ふっ、俺としたことが嬢ちゃんの可愛さに当てられちまってぜぃ」

 まあ、それもよし、とグラストヘイムを後にしようとしたとき

「あ、あ゛~~~~~~~~~っ!」

「しまった。間違えてkou *5 さんに注文されてた『FD専用対初心者アコライト捕獲網』を渡しちまったじゃないかぁ」

 一瞬、重くそびえる古城の門を見やるが

「ま、いっか。商売しょうばいっと」



----監獄の妖精(11)につづく

*1 グラストヘイムの中央にある城のこと。監獄へは、この古城の1Fから入ることができる。

*2 ブラックスミスとはアルケミストとはまた別の商人の上位職。武器を製造したり修理したりすることができる。

*3 この小説はフィクションです。

*4 焔は「ガキ」といわれると反射的に相手に魔法で攻撃します。ちなみに、ゲーム内はしゃべり方も性格も行動も、この小説とまったく同じです。

*5 この小説はフィクションです。





「監獄の妖精」(11)

 はからずも焔の同行を許すこととなったエスタではあったのだが、本音からすると、とてつもなく邪魔ではあった。ただでさえ今回は気を使うことが多いのに加え、何をしでかすか分からないこの能天気娘が傍にいたのでは、思うように(最悪は緊急避難も)動けなくなることが目に見えていたからだ。

 とはいうものの、このまま野放しで監獄に放置する方がもっと不安を抱かせる。他のパーティに迷惑をかけるようなことがあったら……いや、きっと迷惑をかけるに違いない。そんな静かな確信を胸に、エスタは注意深く薄暗い通路に歩を進めた。

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「せ~のっ」
「ん?」

「よ~せ~さぁあ~~~~~ん!」

「んわっ!」

「で~てく~るのだぁあああああっ!」

「やめんかっ!」

 愛用のとんがり帽子 *1 を突き破るほどの突然の大声はもちろん、焔がでっかく口を拡げて発したものだった。

「仮にもここは監獄だぞ! そんな大声を出して、亡者どもが集まってきたらどうするつもりなんだ!?」

「ぶぅ……、だって歩いてばかりだとつまんないのだ」
「だったらプロンティアに帰ったらどうだ?」
「べぇ~~っ、嫌なのだ。妖精さんにもう一度会うのだ」

 無理やりにでも追い返さないのは、エスタとてこの末妹にあまいなぁ、とは思う。

「あっ」

 焔が発したそれは、後ろの曲がり角から数体のインジャスティスが姿を見せたことによるものだった。

「ほらっ」

 言わんこっちゃない……。エスタは面倒臭そうに振り向き、火柱でそれらをの接近を阻んだ。続けて詠唱を始める

「ヘブンズドライブ *2 !」

 背中では、同時に焔による得意のファイヤーボルトの詠唱が聞こえた。まだまだ未熟なスパノビの焔では、4大属性を司る精霊のうち、火の精霊としか契約は結べていない。

「ふぁいあ~ボルト(なのだぁ)」

……パリバリバリッ

 威力は心もとないものの、追撃としてはまずまずといったところだろう。エスタの攻撃に合わせる形で、次々にインジャスティスを葬っていく。

「どだぁ、まいったかっ!(なのだ)」

 調子のいいことを……得意げな焔の様子に苦笑しながらも、状況は今ひとつ良くないことをエスタは直感していた。

(来る……

 エスタの、長年の戦士としての勘が周囲の妖気の変化に敏感に反応した。

「わぁっ!」
「焔っ!」

(そっちか……

 突如、空間を歪めて現れたハンターフライ *3 が、焔に狙いをさだめて襲い掛かった。さほど強い攻撃ではなかったものの、その目にも止まらぬスピードで体当たりを繰り返しては、まだ真新しい鎧肩当てに細かい傷を刻んでいく。
 身軽さが身上の焔だが、その動きを見切るには、何より慣れが足りない。両手で顔を庇うのが精一杯だった。

「や、やめるのだぁ!」
「ちぃ」

 それがきっかけに過ぎないことも、なかば予想はしていた。ほぼ同時にエスタの正面には、後ろに気を取られた隙に火柱を抜けてきたインジャスティスが、一斉にエスタめがけて距離を詰めてきたのだ。

(構うかっ!)

「フロストダイバー *4 っ!」

--ピキィ……

 敵に背中を見せてしまう愚を犯しつつ、焔の足を止めていたハンターフライを凍らせた。


「こ、こあかったのだぁ……
「離れてろっ!」

「エスタ兄ちゃん!」
「なろぉ!」

 気が付けば、工スターは四方を囲まれ、かろうじて敵の刃をかわすのが精一杯だ。

 数峻、繰り出されるインジャスティスの攻撃を杖で受け止め、あるいは身を入れ替えて躱しながらも、凍らせたハンターフライに追撃の雷撃を詠唱するエスタ。たった一匹とはいえ、そのスピードある攻撃は、油断すればこちらの体制を瓦解させる、ハンターフライはそんな敵だった。第一、凍結が解ければ再び焔に向かっていくことが明らかだ。

--パリパリ……

 追撃のライトニングボルトがハンターフライをしとめた。しかし、


----監獄の妖精(12)につづく

*1 もはやエスターのトレードマックともなった魔法職限定の頭装備。その性能は、SPにゆとりのあるウィザードよりもセージや下位職であるマジシャン向けで、特にゲーム内でもセージの大半が使用している。

*2 セージでも扱える数少ない範囲攻撃魔法。いわゆる地面を揺り崩して相手にダメージを与える。

*3 ハンターフライ。あまりに動きが速く、ゲーム内での別名は「シャア」。避けることも攻撃を当てることも困難、という低レベルキャラにとっては恐怖の代名詞といってもいい存在。

*4 フロストダイバー。相手を凍らせる魔法で、これが決まると一定時間、相手を無力化できる。また、凍結している間は対象の持つ属性が「水」に転換させるので、さきほどのライトニングボルトなどの電撃(ゲーム内では風属性攻撃という)の威力が倍増する。
 かつてはこのスキルを駆使して「水」と「風(雷)」の属性攻撃だけで戦う「氷雷」とよばれる魔法職のスタイルが存在した。






「監獄の妖精」(12)

--バシッィィィッ!

「ぐあっ!」
「ひっ、兄ちゃああん!」

 インジャスティスのソニックブロー *1 がついにエスタを捉えた。血飛沫を上げながら壁まで吹き飛ばされたエスタに焔が駆け寄ろうとするが、

「離れてろっ!」
「なっ!」

 脇腹をえぐられ、血を流しているにも関わらず、エスタは焔の接近を拒んだ。

(へっ、好都合……さ)

 杖を支えに、おぼつかない足元ながら、立ち上がって低く、聞こえない声でつぶやいた。

--ジリ、ジリ……

 なおもとどめを刺さんと、距離を詰めるインジャスティスの集団を、やはり痛みを堪えながらも睨み付ける。

--ヘブンズドライブ

 低い声での短詠唱、それゆえそれほどの魔力を練る暇はなかったが、今まさに無数の凶刃を放とうとするインジャスティスの足元を狂わせるには十分だった。その隙を突いて壁を蹴ってよろめく魔物たちの頭を越える。

「ファイヤーウォールっ!」

 空を舞いながら、エスタが放った火壁は、慌てて振り返る魔物たちを襲った。

「まだだ、ファイヤーウォー!」

 先ほどのエスタとは反対に、背後を壁に塞き止められた魔物たちは、続けさまの火壁の連撃に逃げ場を失い、なすすべもなく劫火の餌食となった。

 とはいえ、自ら身を投げ出すように空を跳ねたエスタはそのまま床に激突し、うつ伏せに倒れこんだ。

「ぐあっ……
「エスタ兄ちゃん! 大丈夫?」

 血まみれとなった兄の姿は、焔を動揺させるには十分過ぎるほどだった。

(こ、これなら……

 少々、いやかなり無謀ではあったが、噂の妖精を引きずり出すには十分すぎる状況だったはず。自ら深手を負う危険は承知の上のエスタだった。その狙い通り、

--ボワッ

「あ、妖精さん!」

 ヒーリングの燐光が伏せたエスタを包んだ。焔がその主を視認はしたものの、すぐに消えていなくなってしまうのが「監獄の妖精」と呼ばれる謎のヒール魔だ。しかし、淡い光に包まれ、その姿も曖昧なそれは、今回ばかりはいつもとは様子が異なる。

--!

 すぐに姿を消すと思われた妖精は、今しばらくその姿を留めた。

「な、なんでなのだ?」

 焔は見た。その妖精の表情を、ぼやけてはいるが、明らかに驚きの表情でエスタを見ているように思えた。

「ぐっ……
「エスタ兄ちゃんっ!!!」

(そんな……傷が癒えてないのだっ)

 確かにエスタはヒーリングの光に包まれたはずであった。いかな深手を負っていようとも、その聖なる御業によって癒されたはずなのに。

 動きは、焔よりも謎の存在の方が早かった。伏せるエスタに覆いかぶさるように近づいた妖精は、何度もヒーリングを施し、なお効果の無いことに焦る姿が明らかだった。

「よ、ようやく捕まえた……な」

--ドサッ

 傷のために力なく、それでもエスタは両手で体を支え、件の妖精を目の当たりにすべく壁を背に体を起こした。
 エスタは、このとき初めて、妖精と噂された存在の姿をはっきりとその目で捉えた。

「な、なんだ……可愛らしい、あ…アコライトじゃないか……

 傷ついた戦士を突然のヒールで癒しては姿を消す、人騒がせではあっても決して悪意のある行動ではない。もやのような光に包まれたその姿は人ならざる者を連想させたが、今目の前にある、謎の妖精は、密かな笑みを浮かべているとされた存在ではなく、驚きとも不安ともとれる、人のもつ様々な表情を返した。

 姿形は聖職者見習いであるアコライトそれ。
 金色に輝く長髪は薄暗い監獄の中にあって揺らめくように広がり、見るものに幻想的な光景となって映った。

 今、深手を負って横たわるエスタの前に、監獄の妖精はその姿をあらわした。


----監獄の妖精(13)につづく

*1 ソニックブロー。実はアサシンという職のスキル。8回もの打撃(カタール)による連続攻撃で、防御力の弱い職であれば、一瞬で瀕死状態にまで追い込まれる。



「監獄の妖精」(13)

「だ、大丈夫さぁ」

 心配させすぎたか。目の前でうろたえる妖精は、今にも泣き出しそうな表情で、今なお効果のないヒーリングを続けていた。さすがに、そう仕向けたとはいえ、エスタとて申し訳なく感じたのも無理はない。
 ヒールが効かないことに動揺し、揺り動かそうと伸ばした手は、エスタの体をすり抜けた。唇をかんで悔しがるその目は涙さえ浮かべているように見えた。

(やっぱり幽霊なのかな……

 妖精のその自慢のヒーリングがエスタに効果がなかったのは、リオンのもたらしたヒントによって、あらかじめ自分のローブに不死の呪いを施しておいたためであった。聖なる御業である聖職者の霊力とは相反する属性をその身に纏うことで、ヒーリングはその効果を無にされてしまう。
 得意げにヒールをしては遊んでいるふうの妖精の、戸惑いを誘うのが狙いであった。その狙いは効を奏したものの、自らの回復手段(自前のヒーリング)をも封じることになるこの方法は、ともすればエスタとて非常に危険な状況に身を置いていたことになるわけだが。

「これは、ワザとだから」

 それはともかく、いたずらっ子よろしく、歯を見せて笑いかけたエスタに、少しは安心したのかコクコクと頭を傾げてはじっと見つめる。

(ほんと? ほんとに大丈夫?)

 声はなくとも、そう言っていることが伺えた。ほっとしたような、それでいて悪戯したことを親に叱られたかのように神妙な仕草のあとに、安心した笑顔を取り戻した。

 その表情が再び急変する。

「と~~~ったぁああああああああああ!(なのだ)」
「ぬぁ?」

 --ひらりっ

 焔が絶叫し、手にした虫取り網--監獄の妖精捕獲網(?)--を振り下ろした。それを察知し、辛うじてその凶刃ならぬ凶網をかわす妖精。

「むむむ、なのだ。妖精さん、おとなしく捕まるのだっ!!!」

 なおも、網を振り回す焔に、おっかなびっくりの表情で逃げまわる。

「こ、こら焔。そんなことしたら逃げちゃうだろうがっ!」

「ぬぁあああっ!(なのだ)」(聞いてないし……

 とはいうものの、予想に反して妖精は姿を消して逃げようとはせず、逆に戸惑いも明らかに、時折エスタの方を見ては、

(な、なんですか? この子)

 そんな視線を送る。

「逃がさないのだ。妖精さん、覚悟なのだっ!」(ぶんぶん)

(くすっ)

「あはっ、ははは……

 まったく、しょうのないやつだ。はからずも、重症の兄をほったらかして妖精を狙う焔と、この突拍子もないスーパーノービスの行動に目を白黒させながら逃げる妖精との追いかけっこに、自然と笑いがこみ上げてきた。

 妖精はすっかり本来の調子を取り戻したようで、ときおり舌を出しては頭に血が上った焔をからかっていた。

(幽霊にしては、表情がありすぎるよなぁ。生霊ってか?)

「ま、どうでもいいか……

 相変わらずの焔と、それに付き合ってじゃれあう子供のように、呆れ返ったかのように、それでいて馴染みの光景に、エスタはここが魔境グラストヘルムの一角である監獄であったことを失念するという、彼にしては珍しい失態をおかした。

「!」

--シャアーッ

「ぐあぁああ!」

「エスタ兄ちゃんっ!」

 突如、空より出現したリビオ *1 が、油断したエスタを薙ぎ払った。

(し、しまった……

 深手を負っているにもかかわらず、その手当てもせずに目前の光景に目を奪われていたエスタは、避ける暇もなくなすがまま弾き飛ばされる。それでもなお、転がりながらでも片膝を立てて体制を立て直したのは、凶悪な魔物を前にして無防備な姿を晒すわけにはいかない、という彼の意地ではあったろう。しかしそれも、激痛と、なにより流しすぎた血とのために、まともに魔力を練ることも、動くことすら無理なように思えた。

 それを見抜いたかのように、リビオはエスタに向かってとどめの一撃を振りかぶった。

「な?」

 一閃、リビオとの間に割り込んだ光、その正体は疑うべくもない。

 両手を広げてエスタをかばうように立つ金髪のアコライトは、しかしその覚悟は空しい結果を生むこととなる。

 実体のない妖精の体をすり抜け、凶爪はエスタを襲った。

「うあぁああっ!」

 焔の悲鳴が遠くに聞こえた。

(まずい!)


----監獄の妖精(14)につづく

*1 リビオ。一応、監獄の看守的な魔物。これが倒せなきゃ監獄でやっていけません。



「監獄の妖精」(14)


--ガキッ!

 突如、エスタ目掛けて振り下ろされたリビオの爪は、薄紅色の光に阻まれた。セイフティウォール……、あらゆる物理攻撃を跳ね返す鉄壁の防御壁魔法がエスタを救ったのだ。
 続けて強力な退魔魔法の詠唱が響き渡る。

「マグヌスエクソシズム! *1

 この連携は、間違いない。

「アークか?」
「兄ちゃんっ」

--バリバリバリッ

 悶絶するリビオは、聖なる退魔魔法によって跡形もなく消滅していった。こと悪魔に対しては、エスタより遥かに強力な攻撃力を誇る、一家の中で唯一のプリーストである弟のアークが姿を表した。いや、アークだけではない、同じく弟であるアルケミストのジーンも一緒だ。

「ポーションピッチャーっ! *2

 ヒーリングの効かないはずの今のエスタに、ジーンは直接ポーションによる回復を行った。

「大丈夫? エスタ兄ちゃん」
「ジーンまで……いったいどうした?」

「どうした、もないっしょ? 心配だから見てこいってリオン兄さんに頼まれたんだ」
「そうそう『あれでドジなところがあるから、必要なら助けてやれ』って言われたのさ」

「そ……、そうか。お見通しかよ、かなわないなぁ」

 頭を掻いて納得するエスタに、二人の弟が続けた。

「ところで」
「ん?」
「その……とんでもなく可愛いアコライトはいったい?」

「え? うあっ!」

(えぐえぐ……よかった)

 咄嗟の出来事で、自分でも気付くのが遅れた。エスタの首にしがみ付き、泣いている妖精を見咎められたのだ。というか、

「え、あ……体は?」

(さっきはすり抜けたはず、でも重さも感じないって……

(あれ?)

 それに気付いたのはエスタばかりではなかったようだ。きょとんとした表情を浮かべたのは当の妖精の方。

「よし、こんどこそ覚悟なのだぁああああ!」
「やめんかっ!」

 再び網を振り上げた焔を、エスタはその頭を抑えて止めた。

「うあうあ、エスタ兄ちゃぁん!」

 じたばたして訴える焔を、エスタはたしなめた。

「もういいって」

「相変わらずだよなぁ、焔」
「まったくなのさ」
「ぶぅ……

「で? それが噂の『監獄の妖精』?」
「ああ」

 いきなり4人も揃ったエスタたち兄弟の注目を集める中、金髪のアコライトは少し照れるような仕草と、仲の良さそうに見える兄弟たちを少し羨ましそうに眺め、最後にエスタの方を見た。

「楽しかったかい?」

(コクッ)

 その頷きと笑顔はほぼ同時に、兄弟たち4人に投げかけられた。誰語るでもなく、別れの時が近づいたことを知る。

 いつものように突然消え去るようなことはなかった。燐光とともにゆっくりと宙に浮かび上がった姿は、妖精の名にふさわしい神々しさがあった。

「あ、名前! 名前を教えるのだ、妖精さん!」
「あ、こら焔!」

 ふと、思い出したように焔が叫ぶ。

(くすっ)

 最後の笑みは、振り仰ぐその上に向かって投げられた。同時に妖精の見やる上方に視線を向ける4人。
 誰もが失念していたとしても無理からぬこと。ここが監獄の中であることすら……

 彼らの目に映ったそれは、瞬く夜の娘たちを従え、天空に乳白色の光をもって君臨する満月の世界だった。

「うあぁああ」
「こりゃ……

 そこに天井があることも忘れ、しばし妖精のもたらした幻想に身を浸す4人が我に帰ったとき、そこはいつもの不気味で薄暗い監獄の中であった。

「妖精さん、いっちゃったのだ」
「だねぇ」

「また会えるかなぁ?」

 エスタは、この無邪気な末妹の頭をぐりぐりとなでまわした。

「そうだな、また遊んでもらえ」
「えーっ、違うぞ! 今度こそ捕まえてやるのだっ!」
「はぁ?」

「妖精さん、覚悟するのだあああああっ!」


----------

*1 マグヌスエクソシズム。プリーストの持つ攻撃スキルで、不死や悪魔な存在には絶大な威力を誇る。


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エピローグ


 シャボンのようにふんわりとした気持ちが心を満たし、導かれるように目を覚ました少女に、それに気付いた娘が声をかけた。

「どうしたの? 目がさめた?」

 一瞬、きょとんと、そして見回すように視線を動かしてから、声の主に返事した。

「うん、姉さま。……夢をみてたの」
「あら、どんな?」

 少し頬を赤らめて夢の中身を語ろうとする少女を、興味深そうに促した。しばらく前から、なにやら楽しげな夢をみているらしく、それでいてその内容を語ろうとはしなかったこの少女が、今回ばかりは何か言おうとしている。

「あのね、とんがり帽子のセージさんに遊んでもらったの」

(くすっ)

「そう、よかったわね」
「うん!」

 すべて見るものを魅了するに違いない、そんな笑顔に、娘は少女の髪を撫でて再び促した。

「じゃ、もう一度寝ましょうか」
「は~い」

(明日は、あなたもプリーストに転職するんだしね、セレン *1 ……


--この日を境に、監獄を賑わした謎のヒール魔はぷっつりとその姿を消す。魑魅魍魎の跋扈する監獄に、再び妖精が戻ってくるのは、なおいくばくかの歳月を待つことになろう。


     了


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*1 フルネームは「セレン=フレイヤ」。この小説の中で生まれた存在でしたが、あまりに気に入ったのでゲーム内でも作ってしまいました。周囲にも人気は高く、数あるキャラの中でも、もっとも受けがいい存在です。


「あとがき」

 けっきょくはドタバタ活劇で、しかも夢落ちという非常に芸のない終わり方でした。実際には夢などではなかったことにして、他の小説に続くわけです。

 このままだと「姉様」の存在が気になりますもんねぇ。

 ともかく、ラグナロクオンラインの二次小説として最初に書き始めたのがこの「監獄の妖精」でしたが、完成したのは8番目です。その間にも多くのキャラクターがゲーム内に生まれ、育ち活躍しています。
 そうして増殖したキャラたちが、ふたたび数々の小説の中で活躍することとなるわけですが、そのプロローグともいうべき作品といえるでしょう。

 ともかく、今精力的に書いているのはこの方面の小説だったりします。今しばらくお付き合いくださいませ。

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