「監獄の妖精」(10)
時はほんの十数分前にさかのぼる。グラストヘルム古城前
*1
での出来事だ。
「んー、到着したのだ。エスタ兄ちゃん、もう入ったかなぁ」
性懲りもなく、兄の真剣さとはまったく関係のないところで、スーパーでの買い物に連れて行ってもらえなかった子供が、すねたあげく、実力行使を発揮して追いかけてきたかのような心境で、焔はいた。
ようは遊んでもらいたかったのか、いや、ドジな兄で遊びたかったのだけとも
……。
「やぁ、そこのスパノビの嬢ちゃん」
(ん!)
今まさに古城への入り口に差し掛かったその時だった。
振り返ると、黒サンに白髭、頭には掲示板(「激安」)の、いかにも怪しい風体のブラックスミス
*2
が焔を見てニヤニアとした表情を浮かべていた。
「かあいいねぇ。どうだい? ひとつおいらとお城で甘いアバンチュールでも?」
「お城で番茶? おっちゃん
……お茶に砂糖入れるのか?」
--ズドッ
「な、なんだってぇ~~!」
派手にずっこけたそのブラックスミスは、大抵の女の子なら悲鳴を上げてあとずさったり、少し気丈なら慇懃に「遠慮しときますわっ」程度の、まあごく普通の反応を期待していたはずが
……
こうも素でボケを返してくるとは、まったくの予想外だぜ。
「や、
……やるな」
「?」
「あうぁ~~無垢(断っとくがそれは大きな誤解があるぞ/作者談))でつぶらな視線が突き刺さる」
のた打ち回るようにして呻くそのブラックスミスは、名前をウラキ
*3
という。
主に婦女子をからかっては不審な、そして汚物を見るかのような視線を浴びることに至上の喜びを覚える、いうなれば変態だった。(それ以外の呼び方は思いつかないが
……/作者しつこく談)
「はあはぁ
……(これはこれでエクスタシーかも/嬉)」
「
……変なヤツ」
あまり関わらない方がいいのだ、というのは焔にしては珍しく懸命な判断だった。無視して扉を押し開けようとした瞬間。
「あいや待たれい、そこなガキんちょ」
「ふぁいや~~ぼるとぉ(なのだ)
*4
」
「わちゃ、あちあちあ
……」
「ガキ」と呼ばれてほっておくほど焔は大人ではなかった(もちろんだが)振り返りざまの詠唱でウラキは火炎の手厳しいジャブを浴びることになる。
「ひ~~、前触れもなくいきなり攻撃するとは、なんてヤツだ。いったい親兄弟はどんな教育してんだ、まったく
……」
「いいかげんにしないと怒るぞ。あたしはこれでも忙しいのだ」
「わかったわかった。(もう攻撃してんじゃねえか、)」
「ところで、これから古城に用事のようだが、いったい何を?」
「お兄ちゃんと一緒に監獄の妖精を捕まえるのだ」
「ほぉ」
意外とはいえ、しかしウラキとて最近噂の妖精の件については聞き及んでいた。
「それならちょうどいい、お嬢ちゃん、これを持ってきな。きっと役に立つから」
「はぁ?」
「わがウラキ商隊が総力をあげて開発した対妖精捕獲最終兵器だ。これがあれば1時間に100人の妖精を捕まえることも可能という優れもの。どだ、今ならもう1セットおまけして500z、1セットあたり250zというお買い得っ」
「?????」
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「で、それが渡されたアイテムってやつか?」
「そうなのだ(嬉)」
--げんなり
何をどう転んだらそんな話になるんだか。今、エスタの前の焔といえば、麦わら帽子に
……どう見てもただの虫取り網。(似合いすぎてるのが余計頭を抱えさせる)
「エスタ兄ちゃんのもあるよ」
「いらんわいっ!」
「むむっ、仕方ない二網流でいくのだっ」(ぶんぶん
……振り回すんじゃない)
「か、勝手にやってろ。ったく」
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再び古城前
「ふんふん、500zとはサービスしすぎだったかなぁ。ふっ、俺としたことが嬢ちゃんの可愛さに当てられちまってぜぃ」
まあ、それもよし、とグラストヘイムを後にしようとしたとき
「あ、あ゛~~~~~~~~~っ!」
「しまった。間違えてkou
*5
さんに注文されてた『FD専用対初心者アコライト捕獲網』を渡しちまったじゃないかぁ」
一瞬、重くそびえる古城の門を見やるが
「ま、いっか。商売しょうばいっと」
----監獄の妖精(11)につづく
*1 グラストヘイムの中央にある城のこと。監獄へは、この古城の1Fから入ることができる。
*2 ブラックスミスとはアルケミストとはまた別の商人の上位職。武器を製造したり修理したりすることができる。
*3 この小説はフィクションです。
*4 焔は「ガキ」といわれると反射的に相手に魔法で攻撃します。ちなみに、ゲーム内はしゃべり方も性格も行動も、この小説とまったく同じです。
*5 この小説はフィクションです。