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【監獄の妖精】
 そこは俗に「監獄」と呼ばれ、多くの亡者魔物の徘徊する魔都グラストヘイムの一角。多くの戦士たちが魑魅魍魎を相手に死闘を演じ、様々な冒険譚がまことしやかに語られる、そんな場所だった。今、彼らの間で囁かれるひとつの噂が広がりつつあった。


監獄の妖精

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「監獄の妖精」(4)


 どうやら、ここをどこかの商店街のど真ん中と勘違いしたかのような大声と喧騒の入り乱れた行進は、当然といえば当然のごとく、監獄に跋扈する亡者たちを呼び寄せる結果となったらしい。
 見て見ぬ振りもできないのは、未だ未熟とはいえエスタの矜持というべきだろう。悲鳴の源を目指して駆ける。

「ぐぇ~~!」
「ん、ばっ!」

 エスタが予想したとおり、2~3匹の囚人 *1 とインジャスティス *2 にいいように弄ばれ、血飛沫を上げながら転がっていく光景が目の前にあった。咄嗟に、

「ファイヤ~ウォール!」

……バリ、バリバリ!

 囚人とインジャの足元に出現した炎の柱は、計算どおり逃げ惑う馬鹿どもとモンスターを分断した。

「ヌガ~~!」

(ふん、一応怒るだけの頭脳はあるんだな)

 突然の現れた邪魔者の存在に、いやましに狂気を顕にしてエスタに向かって襲い掛かってきた。この程度の数のモンスを倒すのに、30秒もかかるものではない。予め設置した火柱に誘導するようにモンスたちの中心を駆け抜け、同時に詠唱を始める。

……バ、バババ、シュー

 次々に炎に包まれ灰となっていく囚人たち、そして遅れて近づいてきたインジャスティスは、エスタにあと一歩というところで天井からの雷撃を受けて黒焦げとなって崩れ落ちた。

「大丈夫か?」

 ご丁寧に特にダメージの多そうな数人に、プリーストには及ばぬまでも応急手当にはなるであろうヒーリング 3 を施したエスタだったが、

……ドカッ!

「んげっ!」

 突然、背後から強力な蹴りを入れられ、床に倒れ込むエスタ。

「な、なんだ? わっ、」

……ドカドカ、
……ガシガシ!

 寸瞬も惜しまず、ダース単位のブーツによる蹴りがエスタを襲う。

「ぎゃっ、よせ、痛いいたい!」

「なんだ、手前はっ、せっかく俺らがフェアリーちゃんの愛情の篭ったヒールを楽しみにしてるっていうのに、突然現れて邪魔するとはぁ!」
「そうだそうだ、男なんかにヒールなんかされたくないったらないぞ!」
「このっ、この!」

「な、何を、ば…ぐぇ!」

 あろうことか、せっかく助けたはずの連中に足蹴にされることになるとは、あまりの不条理と、突然の出来事に頭の中が混乱してされるがままになるエスターだった。

「邪魔なんだよ、手前は!」
「そうだそうだ、邪魔なのだぁ!」

 どうやら、野郎ばかりと思っていた集団の中には、そうでもないのも居たらしい。ブーツばかりではなく、それに混じって黄色い声とともに小ぶりのサンダルでエスターを小突くヤツがいた。

(ん? 『なのだぁ』?)


----監獄の妖精(5)につづく

*1 魔物、ゾンビプリズナーのこと。監獄に囚われていた囚人たちのなれの果て。

*2 昔は囚人たちを苛め抜いたのであろう拷問官らしい。ほとんど裸に近いその姿は、ある種の趣味な世界を想像させる。ゲーム内での俗称は「変態」。

*3 聖職者のスキルであるヒールだが、ゲームでは他の職でもこのスキル(といっても低レベル)が使えるようになるアイテムが存在する。そのため、魔法職であれば「コツを使えば聖職者の真似ごと」ぐらいはできるようになる、という設定。


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