「監獄の妖精」(5)
「ん、がぁ~~~!」
……ガバッ!
「うぉっ!」
「なんだぁ、こいつ、突然立ち上がりやがった」
もう、瀕死のところまで蹴り続けたと思っていた相手が、不条理な掛け声とともに起き上がり、男たち数人が床に飛ばされた。
狼狽する連中に目もくれず、エスタはその一点に向かった声を荒げた。
「ほ~む~ら~~~~! お前、いったい何をしてんだぁ!」
「あ、エスタ兄ちゃんなのだぁ\(~o~)/ 元気ぃ?」
「実の兄を足蹴にして散々痛めつけといて、『元気ぃ?』だとぉ!?」
「あ、あはははははっ
……」
スーパーノービスの焔(ほむら)
*1
1は、一家の末娘であり、エスタにとっても妹にあたる。「~なのだぁ」が決まり文句の能天気娘だ。
「なんで、お前がこんなバカげた連中と一緒にいるんだ!」
「んとね、噂の妖精さんに会わせてくれるっていうから付いてきたのだ」
「ばかたれっ! 知らない人に付いていったらダメだと、沙希も言ってたじゃないか!」
「でもでも
……」
ひどい言われようだが、これぐらいまくし立ててもおそらくは反省など一切しないことは、当のエスタであっても身にしみてよく知ってはいた。
とはいうものの、
「やいっ! 我らがアイドルの焔ちゃんを怒鳴るとは何ごとだぁ!」
「そうだそうだ、事と次第によっちゃあ
……」
……ギロッ!
「うっ」(たじたじ)
さすがのエスタも頭にきたのか、殺気を含んだ視線で男たちを睨みつけた。
「そ
……そうだったな。勝手にヒールなんかして悪かった
……」
「うぉ!(汗)」
「モンスの代わりに、利子をつけて返してやるから安心しなっ!」
「げっ!」
大気中の精霊の力を集め、エスタの身体が薄黄色の燐光に包まれた。
「ぅぁら~い~とに~んぐー
*2
!」
「ぎゃ、あ
……え、遠慮しときますぅ~~~!」
容赦ない呪文の詠唱に、脱兎のごとく逃げさる男たち
……
……キャストキャンセル
*3
「ハァハァ…、ったく…」
ズタボロのごとく叩きのめされたエスタではあった。壁にもたれかけるようにしてへたり込んだとしても無理のないことだったろう。
「大丈夫ぅ?」
「し、知るか
……」
何がなんだか、とりあえず頭を抱えたくなるような出来事が続いたことで、怒る気力も消失していた。
「あっ」
「!」
焔の短い発声に、何ごとか、とエスタが振り仰いだ瞬間だった。
……ポアッ
[PIC]
「っと!」
一瞬、独特の光に包まれたかと思ったら、それまでエスタを苛んでいた打ち身や切り傷による痛みが掻き消えた。これかっ
立ち上がると同時に、その監獄の妖精とか噂されるヒールの主を目で追う。
(
……!)
黄色というよりはもっと白っぽい靄のようなものが薄暗い監獄の中にあって淡い光を放っているようにも見えたが、一瞬のことで判然としなかった。
だが、エスタは見た…というよりは感じた
……くすっ
確かに「それ」は笑っていたかのような表情をしていたのだ。
「だ、(誰だ?)」
声を出そうとする間もなく、その靄は四散するように掻き消え、そこはいつもの見慣れた薄暗い監獄の景色でしかなかった。
「あれが妖精さんなのだぁ。本当にいたんだね(嬉)」
「らしいな。しかし
……本当に幽霊の類なんだろうか。あんなの聞いたこともないが
……」
「まあ、ともかく、最初は半信半疑だったけど、確認はとれた。いったん戻るか」
「戻る?」
「ついてこい、焔っ」
「はーい、なのだぁ」
(テレポート
*4
)
(テレポなのだぁ)
----監獄の妖精(6)につづく
*1 フルネームは「紫 焔(むらさき ほむら)」前述のアーク、沙希をはじめ、彼ら兄弟たちの名前にはファミリーネームによる共通点がない。ひとえに行き当たりばったりでキャラを増産していたツケである。一応、女性キャラには名前のどこかに「サキ」が入るように考えてはみた。
ちなみに「スーパーノービス」とはノービスから始まるキャラの育成において、ある程度高いレベルまで他の職に転職せず、かわりに1次職(マジシャンやアコライトなど)のどのスキルでも覚えることのできるようになった特殊職のこと。覚えることのできるスキル数も増えるわけだが、所詮1次職のスキルどまり。小回りがきき、多様性も抜群ながら力不足は否めない。
*2 「ライトニングボルト」いわゆる電撃魔法。相手に雷を落とすようなスキルで、エスターが好んで使う。
*3 キャストキャンセル。普通、魔法の詠唱は自分では中断することができず、また詠唱中は移動もできないのがゲームの仕様。しかし、セージはその詠唱を中断したり、詠唱しながらでも移動することができる。
*4 テレポートも聖職者のスキルだが、他の職でも使えるようになるアイテムが存在する。ゲームの仕様では、「同じマップの別の場所にランダムで飛び出す」という微妙な代物。それではあんまりなので、小説ではちゃんと狙った場所に瞬間移動できることにする。