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【監獄の妖精】
 そこは俗に「監獄」と呼ばれ、多くの亡者魔物の徘徊する魔都グラストヘイムの一角。多くの戦士たちが魑魅魍魎を相手に死闘を演じ、様々な冒険譚がまことしやかに語られる、そんな場所だった。今、彼らの間で囁かれるひとつの噂が広がりつつあった。


監獄の妖精

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「監獄の妖精」(9)


「エスターさんっ!」
「えっ、ラキさんどうしたの? えらく興奮(血走った目で)して……

 手はずを整え、揚々と監獄に乗り込んできたエスタだったが、待ち構えていたようにクルセのラキに呼び止められた。

「妖精を捕まえたら、ぜひ私に譲ってくださいっ(>_<)」
「はぁぅあ?」

 突然、何を言い出すやら。まさか、監獄でも数少ない良識派と信頼していたラキまでも、よなよな「らぶらぶふぇありぃ、ちゃわぁ~~ん」と連呼して徘徊する例の集団の毒気にでも当てられてしまったとでもいうのだろうか。
 脳髄の奥に、不安からくるかすかな頭痛の種を意識し、エスタは続けて問いただした。

「また、なんで?」

 ラキは、切羽詰ったような、それでいて哀れさを誘う真剣な面持ち(ヘルムとアイアンケイン *1 のおかげで顔は見えないのだが)で叫んだ。

「専属のマグニ *2 とヒールが欲しいんですぅ~~~!」
「あ、あ~~っ! なるほど」

 ラキが常用している(というより他の技は見たことないぞ)グランドクロスは、その強力な攻撃力と引き換えに凶悪なほどのリバウンドを術者自身に強要する。いわば肉を切らせて骨を断つ戦法だ。無論、プリーストには及ばないものの、長年の聖騎士としての修行で身に付けたヒーリングによって、ある程度は軽減はできるものの、それでも凶悪さを増す最近のモンスターを相手に、ソリストとしての限界を感じていたのだろう。

 それにしても、

「正体も分からないような存在にまで頼るようになるなんて、ラキさん、よっぽど……(涙)」

 あまり公言できることではないが、ラキは現在、相方(プリースト)募集期間6ヶ月の記録更新中だ。そういえば、エスタの弟プリのアークが自宅謹慎になった、というのを聞いた時の残念そうなラキの顔が、今更ながら思い出された。

 ま、話が脇に逸れた。つか、ここで単独行動しているのはエスタだって同様なのだ。いちいち泣き言に付き合ってられるか。

「ま、行ってくるさぁ」
「頼みましたよぉ、エスターさんっ!」

 感激と名残を惜しむかのようなラキの抱擁(それはたまらん)をさらりと躱したエスタは、

「じゃ、後ほどっ」

--テレポート


 さて、いくつかのテレポアウトは、エスタにとってこの日の監獄の様子を探る目的のものでもあった。徘徊するモンスの足音や、別働のパーティの位置などをおぼろげながらイメージしていった。

 いつになく慎重に闇に目を凝らす。

 それもそのはずだ。自分が何らかの負傷を負わねば、件の妖精は現れない。わざと囚人どもの刃に身を晒すか……しかし、一歩間違えばこちらの命も危ない。慎重にもなろうというものだ。とりわけ……今回に限っては。

--ヒュン……

「あ、エスタ兄ちゃんっ!」
(びくっ)

 おそらく、妖精は言うに及ばず、画面を埋め尽くすほどのモンスターの集団の中に、まかり間違ってテレポアウトしたとしても、この時ほどの驚愕を与えはしなかったであろう。

「焔っ! な、なんでお前が居るんだ? 家でおとなしくしてろ、とあれほど……んぁ?」
「あたしも妖精さんを捕まえるのだっ!」

「捕まえるって……お前、なんだそれは?」

 そのときの焔のいで立ちといったら、頭の麦わら帽子は、まあ分かる。焔のお気に入りでもあったし、第一転職祝いに材料を集めて回ったのは他ならぬエスタであった。しかし

「えとね、」


----監獄の妖精(10)につづく
*1 ともに剣士系が使う防御力重視の装備。見た目をより一層ごつごつさせる。

*2 プリーストのスキルで、魔法などのスキルで消費させるSPの回復速度を上昇させるとっても役にたつスキル。いわゆるスキルで戦う職(や戦闘スタイル)にとっては垂涎のスキルともいえる。



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