MODE: GUEST
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1 ……パチパチッ か細い音を立てて小さな焚き火が揺らいだ。まるでその主たる少女の心の在り様を表すかのように、時折はじけては、橙色の沈黙がそれに続く。 運命に追い立てられるように、ゲフェンを後にしてからまだ数日しか経ってはいないというのに、既に心中の大部分は孤独という痛みに支配されつつあった。 城壁に守られたかの魔都の外に、よくよく考えてみれば今まで出たこともない。 そこは既に人外の生き物--場所によっては「生き」物でさえないのだが--の支配する所であったのだから当然であったろう。純粋に身の危険を間近に想像し、そして頼るものの何一つない心細さが、目前の焚き火の返す無言の揺らめきに、声無き返事を求める。 (あたしは、これからどうしたらいい?) 応えがあるはずもなく、懐の書簡をローブの上から確める。今のミサキにとって唯一の目的、それは希望と言い換えてもいいだろう。 --プロに行くがよい 今も、大恩あるメシル老師の言葉がミサキの心に余韻を残している。 何でもよかった。何かしら目的があれば、少女は歩を進めることができた。 ……パキッ 「ハッ?」 不意に、朽ちかけた焚き火から、とは別の音に、ミサキはぎょっとした表情で、しかしその背後を確めることができずにいた。 (な、なに……?) こんな真夜中に、しかも人里離れた森の中を行き交う者などありはしない。そう「者(人)」は…… それが魔物(モンスター)に類するものであることを疑う理由は何も思い浮かばなかった。 (ど、どうしよう……) ミサキは、両の手で抱きしめるように杖を握りしめた。マジシャンとなったからには武器と呼べるものはこれだけしかない。古くなったとはいえ、先代のマジシャン転職官であるカーラから譲り受けた由緒ある杖だ。 ……パチパチッ 今一度、その揺らぐ焚き火の音は既にミサキの耳には入らなかった。震える背中に全神経が集中し、いつしか不安が沈黙を、そして月光が静寂を運んできた。 そう、今夜は夜なお明るいとさえいえるほどの月夜だった。森の中にあってさえ野草がしたためる雫が光りを返す。 (気のせいだったのかしら…) そう思うと、ふっと力が抜けて、目前の焚き火を見、次に野草を照らす光の主を見上げた。昼間の降り注ぐ陽光とはまったく趣が異なり、静かに染み込むようにして落ちる光。 「ふぅ……」 (えっ!!!!) 深く息を吐き出し、再び視線を下ろした時に感じた「それ」は、声にならない驚きをミサキにもたらした。 すぐ近く、それも肌に感じるほど間近……。 (ま、まさか……) 確めざるを得ない。ゆっくりとその気配の在り処である方向、左に首を向けた。 月の光を受けて、あたかもそれが燐光を纏うように眩く長い金髪の……一人の少女がまるでミサキと肩を寄せ合うようにして…… そこにいた。 |
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