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【薫りの路】
 正月早々から開いているのはパチンコ屋ぐらいのもの……
 郷里で見つけた喫茶店は、いつしか毎年の恒例となっていた。


薫りの路


正月早々から開いているのはパチンコ屋ぐらいのもの……


 大学に入学し、初めての一人暮らしが始まって、いつしか郷里が遠く感じるようになるその、まだ少し前のころ。

昔馴染みの顔が恋しくて
ただ、田舎の行事が億劫で

 つい、連絡を取って落ち合ったのが、町でたったひとつしかない駅のその近くの小さな喫茶だった。

「ここよりもずっと田舎よ、大学は」
「へぇ……

「髪を伸ばしたのか」というのが、久しぶりに会ったときの印象だった。

 獣医を目指して俺よりもずっと遠くに進学したそいつは、昔は幼いころはよく遊んだ--そのため気安いことは確かだが--知らない間に勉強をして、ずっとレベルの高い進学校に合格したのがもう随分前のことのように思える。
 それ以降疎遠になっていた幼馴染だ。

 その喫茶店はめずらしく初日から開店していて、他にすることも思いつかずに二人で飛び込んだのが最初だった。気の若いじいさんが一人できりもりし、町の行事や最近の出来事などを話してくれた。

「水が違うんだ、水が」と、じいさんの自慢の珈琲は、確かに味わい深く心なしか樹の薫りがした。

 それが年に一度、正月の恒例となった。どちらが誘うまでもなく、初日の午前中にどちらかが立ち寄り、待ち合わせのように再会し、そして昼過ぎまでの時間を様々な話をしてすごした。

「この店の珈琲の味が忘れられないからさ」
と言うと、
「そりゃ、そうだろう、だはは……

 ニヤとして応える気の若いじいさんの笑い声が、年の瀬になると聞こえてくるようだった。



「ねぇ、聞いた?」
「何を?」

 ついに田舎には戻らなかった、と振り返ってみるようになって、既に都会で就職もし、仕事にやりがいを感じ、そして疲れも覚えはじめたとき。いつしか、帰郷の足がかりも探してみないと見つからなくなっていた。

 もう少ししたら、都会で過ごした時間が、思い出に追いつく……


 それでも欠かしたことがない喫茶への道すがら、店に着くその前にそいつと鉢合わせたのはまったくの偶然だった。
 俺と同じで--多分苦労も多かったのだろうが--うまく大学の研究室に残り、そこそこの実績を買われて念願だった牧場での勤め先も決まった、と聞いたのがしばらく前のことになる。
 今よりもさらに遠くに行ってしまうことになると、やや寂しそうに……そんな言い様に大きくは「おめでとう」とは言えなかったものだ。


 突然、神妙な顔で話しかけたそいつに、訳がわからず問い返した。

「あのおじいさん、去年の暮れに亡くなったそうよ」
「え……

 失ったのは言葉だけではない……そんな気がして押し黙った俺を、やや心配そうな目で一瞬見つめ、そして視線を戻して……

(じゃ、やってないよな、もう……

 そんな当たり前のことを……話題にしたくなかったとでもいうのだろうか、二人とも、何もしゃべらなかった。ただ、「そう」であったかのように郷里の薫りのするはずの店に足は向かった。

--カラン……

「あれっ?」

 意に反して、開くはずのない扉と鳴るはずのないベルの音に驚き、思わず顔を見合わせた。

「いらっしゃいませっ!」

 耳に残っているじいさんの声ではなかった。ガランとした店内は記憶の中のそれとは少し違っていて、いっそ殺風景に見えた。片付いたテーブルと椅子……何より、こんなに小奇麗ではなかったはずだ。
 しかし、「心遣いを感じる」と小声でつぶやいたそいつは、俺とは違って何かを感じたのかも知れなかった。

 少し小太りで白いエプロン姿の、どちらかというと近所のおばさん、といった雰囲気の女性が、にこやかな笑みを浮かべて、俺たちを迎えた。

「どうぞ、」

 まるで俺たち二人を待っていたかのように、注文もまだしていないというのにテーブルに座るとすぐに差し出された二杯の珈琲は、何故か懐かしい薫りがした。

--じいさんは……

 そう尋ねるのが禁句のような気がして、時折店内を見回しては何度かそいつとも目が合った。居心地の悪さはさほどではないが、不思議な感覚に戸惑いはしていた。

「どうかしら? 父さんの味に比べてみて」

 そうか、どうやら死んだじいさんの娘さんだったようだ。

「美味しい……
「ちっとも変わりませんよ! そうそう、この味!」

 いきおい感激して、そう口走った俺を、目で嗜めるそいつがいたが、

「ありがとうね、父さんも喜ぶわ。なんといったって、最後の遺言だったから」
「遺言?」

「そうよ、『店をたたむのは仕方ないとして、来年の正月だけは開けてやってくれ』ってね。一人娘への最後の言葉がたった一回きりのこの珈琲の作り方……、おかげで年末は店の掃除と珈琲の練習になってしまったわ、あはははは……

 陽気に笑うその口調が、なるほどじいさんの娘らしい、とそう思えた。

「店は続けないのですか?」
「仕方ないわねぇ。私も旦那と一緒にこの町を出ちゃったからねぇ」

 じいさんの言っていた自慢の水は、実は遠方に嫁いだこの娘さんのご主人の手配によるものだったことを、このとき初めて聞かされた。

「わざわざ、あたしたちのために……なんて言ったらいいか」

 そういって涙ぐむそいつに、

「かまやしないさ。私も、父さんのいい思い出ができて良かったと思っているんだ」


「本当に、ありがとうございました」

 例年と同じに、このときばかりはじいさんの思い出を交えて三人で語り合った。この町のこと、都会での生活と牧場でのエピソード……

 深々と礼をする俺たちに、来たときと同じにこやかな笑みで手を振る姿が、じいさんの笑い声と重なり、店の外見と重なって……


--あの二人は……この町の子らじゃからなぁ

 俺たちのことを指したじいさんの言葉が、忘れかけていた何かを思い出させてくれそうで、喉の奥にひっかかったものを押し出すまでにしばらくを要した。

「なぁ……
「なあに?」

 不意に立ち止まった俺を振り返るように

「あの珈琲のレシピ、俺にも教えてもらえるのかなあ」

 視線を、実はそらしながらそうつぶやくように言った俺の心の内をを、おそらくは察したのだろう。そのときのそいつの複雑な表情と、そして何かを決めた後のような力強い笑顔が印象的だった。

「もちろんよ! 教えてもらいましょ! さあっ」

 俺の腕をとり、駆け出すように今きた道を戻る。

「お、おいっ!」

 組んだ腕が強く引っ張られ、懐かしい薫りの路を俺たちは追いかけた。


     - おわり -




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